労災の後遺障害9級

労災の後遺障害9級

労災事故によって負ったケガや障害が治った後も、身体に後遺症が残るケースは少なくありません。特に「後遺障害9級」に該当するような障害を負った場合、今後の仕事や日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。

そのため、適正な等級認定を受け、労災保険から適切な給付を受け取ることは非常に重要です。

本記事では、労災の後遺障害9級について、認定基準や受け取れる給付金の内容、認定事例、さらには等級認定を受ける際の注意点までわかりやすく解説します。

後遺障害9級に該当するかどうか不安な方や、認定手続きに悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

目次

労災の後遺障害等級とは?

考え事をしている女性

仕事中や通勤中の災害によって傷病を負った場合、労働者は、労災保険による補償が受けられます。その際、何らかの障害が残ってしまった場合、後遺障害等級の認定を受けられれば、後遺障害に対する補償も受けられます。

労災保険では障害の程度に応じて1級から14級までの後遺障害等級があり、等級が低いほど(=1級に近いほど)障害の程度は重く、高い補償が支給されます。

後遺障害9級は中程度の障害とされており、仕事や日常生活への支障は決して小さくありません。適切な認定を受けることで、今後の生活再建に向けた補償を確保することが可能になります。

後遺障害9級の認定基準

後遺障害9級の認定基準

後遺障害等級9級が認定される症状には、以下のようなものがあります。労災で後遺障害等級認定を受けるには、認定基準に該当する必要がありますので、症状ごとの認定基準を押さえておくことが大切です。

両眼の視力が0.6以下になったもの

万国式試視力表により、両眼の視力が0.6以下になった場合、後遺障害9級が認定されます。視力は、矯正視力を指しますので、眼鏡やコンタクトレンズを用いて視力測定を行います。

1眼の視力が0.06以下になったもの

万国式試視力表により、1眼の視力が0.06以下になった場合、後遺障害9級が認定されます。視力は、矯正視力を指しますので、眼鏡やコンタクトレンズを用いて視力測定を行います。

両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの

両眼に以下のような症状が残った場合、後遺障害9級が認定されます。

  • 半盲症……視野の半分(右半分または左半分)が見えなくなってしまう状態
  • 視野狭さく……視野が狭くなってしまう状態
  • 視野変状……視野の一部が不規則に欠ける、見えない部分がある状態

両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

まぶたに著しい欠損を残すものとは、普通にまぶたを閉じたときに、角膜(黒目)を完全に覆うことができない程度のものをいいます。

鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの

鼻の欠損とは、鼻軟骨部の全部または大部分を欠損している状態をいいます。

また、機能に著しい障害を残すものとは、鼻呼吸困難または嗅覚脱失をいいます。

そしゃく及び言語の機能に障害を残すもの

そしゃく機能に障害を残すものとは、固形食物の中に咀嚼ができないものがあることまたは咀嚼が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できる場合をいいます。

言語機能に障害を残すものとは、4種の語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)のうち、1種が発音不能となったものをいいます。

両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度とは、以下のいずれかに該当する状態をいいます。

  • 両耳の平均純音聴力レベルが60db以上のもの
  • 両耳の平均純音聴力レベルが50db以上であり、かつ最高明瞭度が70%以下のもの

1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

これは以下のいずれにも該当する状態をいいます。

  • 1耳の平均純音聴力レベルが80db以上のもの
  • 他耳の平均純音聴力レベルが50db以上のもの

1耳の聴力を全く失ったもの

1耳の聴力を全く失ったものとは、1耳の平均純音聴力レベルが90db以上のものをいいます。

神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

通常の労働を行うことはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるものをいいます。たとえば、1人で手順通りに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする場合がこれにあたります。

胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

胸腹部臓器の障害は、呼吸器、循環器、腹部臓器、泌尿器の4つの部位に分けられます。

呼吸器の障害

動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定結果が、以下のいずれも満たす場合、後遺障害9級が認定されます。

  • 動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下であるもの
  • 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲内(37Torr〜43Torr)にあるもの

循環器の障害

循環器の障害が後遺障害9級と認められるのは、以下の場合です。

  • 心機能低下により概ね6METsを超える強度の身体活動が制限されるもの
    (例:平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限されるもの)
  • ペースメーカーを植え込んだもの
  • 房室弁又は大動脈弁の置換をし、継続的に抗凝血薬療法を行うもの

腹部臓器の障害

【胃の障害】

胃の全部または一部を失ったことによる障害は、そのことにより生じる症状の有無により等級認定が行われます。後遺障害9級が認定されるのは、以下の症状です。

消化吸収障害ダインピング症候群胃切除術後逆流性食道炎
第9級ありありなし
ありなしあり

【小腸および大腸の障害】

小腸および大腸の障害が後遺障害9級と認められるのは、以下の場合です。

  • 小腸を大量に切除し、残存する空腸および回腸の長さが100cm以下となったもの
  • 小腸(または大腸)の皮膚瘻を残し、瘻孔から漏出する小腸(または大腸)内容がおおむね100ml/日以上のものであって、パウチ等による維持管理が困難ではないもの
  • 常時おむつの装着が必要なもの

【肝臓の障害】

肝臓の障害のうち、肝硬変になったものについては後遺障害9級が認定されます。

【すい臓の障害】

外分泌機能の障害または内分泌機能の障害の両方が認められるものについては後遺障害9級が認定されます。

【腹壁瘢痕ヘルニア等を残すもの】

常時ヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるものまたは立位をしたときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるものについては、後遺障害9級が認定されます。

泌尿器の障害

泌尿器の障害は、じん臓、尿管・膀胱・尿道の障害に分けられます。

【じん臓の障害】

じん臓の障害は、一側のじん臓を失った場合と失っていない場合で区分し、腎臓機能の低下の程度(GFRで判定)により等級を認定します。じん臓の障害で後遺障害9級が認定されるのは、以下の場合です。

  • 腎臓を失った場合で、GFR値が51ml/分~70ml/分であるもの
  • 腎臓を失っていない場合で、GFR値が31ml/分~50ml/分であるもの

【尿管・膀胱・尿道の障害】

尿管・膀胱・尿道の障害で後遺障害9級が認定されるのは、以下の場合です。

  • 尿禁制型尿路変向術(禁制型リザボアおよび外尿道口形成術を除く)を行ったもの
  • 残尿が100ml以上あるもの
  • 切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため、常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないもの

1手の母指又は母指以外の2の手指を失ったもの

片手の親指または親指以外の2本の指を失った場合、後遺障害9級が認定されます。

手指を失うとは、以下のいずれかの状態をいいます。

  • 手指を中手骨または基節骨で切断したもの
  • 近位指節間関節において、基節骨と中節骨とを離断したもの

1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの

片手の親指を含む2本の指または親指以外の3本の指の用を廃した場合、後遺障害9級が認定されます。

手指の用を廃したものとは、以下のいずれかの状態をいいます。

  • 手指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの
  • 中手指節関節または近位指節間関節(親指にあっては指節間関節)の可動域が、健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの

片足の親指を含む2本の指を失った場合、後遺障害9級が認定されます。

足指を失うとは、中足指節関節から失ったもの指します。

1足の足指の全部の用を廃したもの

片足のすべての指の用を廃した場合、後遺障害9級が認定されます。

足指の用を廃したものとは、以下のいずれかの状態をいいます。

  • 親指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの
  • 親指以外の足指を中節骨もしくは基節骨を切断したものまたは遠位指節間関節もしくは近位指節間関節において離断したもの
  • 中足指節関節または近位指節間関節(親指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

(外貌に相当程度の醜状を残すもの

外貌とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢・下肢以外の日常露出する部分をいいます。

外貌に相当程度の醜状を残すものとは、原則として顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

生殖器に著しい障害を残すもの

生殖器に著しい障害を残すものとは、男女別に以下の状態になった場合をいいます。

男性の場合

  • 陰茎の大部分を欠損したもの(陰茎を膣に挿入することができないと認められるものに限る)
  • 勃起障害を残すもの
  • 射精障害を残すもの

女性の場合

  • 膣口狭窄を残すもの(陰茎を膣に挿入することができないものと認められるものに限る)
  • 両側の卵管に閉塞もしくは癒着を残すもの、頸管に閉塞を残すもの、または子宮を失ったもの(画像所見により認められるものに限る)

【参考】労災事故の対処方法② 後遺障害申請をする際の注意点

後遺障害9級で受け取れる給付

後遺障害9級で受け取れる給付

労災による傷病で後遺障害9級が認定されると、労災保険から以下のような補償が支給されます。

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、労災による傷病で障害が残った場合に支給される補償です。障害(補償)給付には、障害の程度に応じて「障害(補償)年金」と「障害(補償)一時金」の2種類がありますが、後遺障害9級の場合は、障害(補償)一時金が支払われます。

具体的な金額は、給付基礎日額の391日分です。

給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいい、労災事故発生日の直前3か月間に労働者に支払われた金額の総額をその期間の歴日数で割った、1日あたりの賃金額を指します。

障害特別支給金

障害特別支給金とは、労働者災害補償保険法29条の社会復帰促進等事業の一環として支払われる補償で、労災保険給付に上乗せして一時金として支払われます。障害特別支給金は、障害の程度に応じて金額が定められており、後遺障害9級の場合は、50万円になります。

障害特別一時金

障害特別一時金とは、障害特別支給金と同様に労災保険給付に上乗せして支払われる補償で、障害の程度に応じて一時金として支払われます。

後遺障害9級の場合は、算定基礎日額の391日分です。

算定基礎日額とは、労災事故発生日前の1年間に労働者に支払われた特別給与の総額(算定基礎年額)を365日で割った、1日あたりの賃金額です。

特別給与とは、ボーナスや期末手当など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金をいい、臨時に支払われた賃金は含まれません。

【参考】労災保険の給付では不十分?

労災の後遺障害9級認定の事例

鉛溶解釜のメンテナンス作業をしている男性

【事例】

溶融鉛の飛散により熱傷を負い、後遺障害9級・14級が認定されたケース

ご依頼者様:60代男性(事故当時は派遣社員)

業務内容:自動車用バッテリー工場にて、鉛溶解釜のメンテナンス作業

傷病名:顔面・頸部・体幹の熱傷、右手指の熱傷

後遺症:手指の神経障害、顔面部の醜状痕

認定等級:後遺障害等級9級11号および14級9号

【事故の概要】

ご依頼者様は、派遣社員としてバッテリー製造工場に勤務中、鉛溶解釜のヒーター交換作業を行っていました。取付部に蓄積していた鉛酸化滓の除去中、溶融鉛が突然飛散し、顔面や上半身、右手に重度の熱傷を負いました。

【ご相談内容】

事故後、労災保険による後遺障害等級認定の手続を進めていたものの、会社からの損害賠償の話がまったく進まず、今後どのように対応すべきか不安とのことでご相談に来所されました。また、企業に対する損害賠償請求の可否や賠償額の目安についても知りたいとのご希望がありました。

【解決までの流れと結果】

弁護士が事故資料を精査した結果、企業側の安全配慮義務違反が疑われるとして、損害賠償請求を開始しました。任意交渉では企業側が責任を否定したため、訴訟に移行。裁判では、予見可能性や作業環境の不備を立証し、企業の責任を追及。1年余りの訴訟を経て裁判所から和解案が提示され、依頼者も納得のうえで和解に至りました。

労災保険による補償額:約534万円

企業からの損害賠償金:約200万円

合計補償額:約734万円

結果として、事故の重大性と企業側の責任を認めさせ、適正な補償を得ることができました。

【参考】顔面分の線状痕で第9級11号の2、右手第2・3・4指の可動時の疼痛で第14級の9号が認定され、約734万円が補償された事例

適切な後遺障害等級認定を受ける重要性

労災について相談している男性

労災保険では、後遺障害等級の認定結果に応じて給付内容や支給額が決定されるため、等級の判断は補償額を左右する極めて重要な要素となります。

また、勤務先に対して損害賠償を請求する場合には、後遺障害に基づく慰謝料や逸失利益を求めることができますが、これらの金額も等級に準じて算定されるのが一般的です。そのため、等級認定に誤りがあると、受け取れるべき補償が本来よりも大幅に少なくなってしまうおそれがあります。

こうした不利益を避けて、正当な等級を認定してもらうには、労災や後遺障害等級の仕組みに詳しい弁護士の支援を受けることが非常に有効です。労災事故によって後遺症が残ってしまった場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談することを強くおすすめします。

【参考】労働災害に関する弁護士費用

労災事故の後遺障害は詳しい弁護士に相談を

集合写真

後遺障害9級に該当するケースには多様な症状が含まれますが、それぞれに厳密な認定基準が設けられているため、専門的な知識や実務経験がなければ、適正な等級を得るのは容易ではありません。

本来の等級よりも低い等級が認定されてしまえば、将来的に受け取れる補償額が大きく減少することになりかねません。そのため、早い段階で労災や後遺障害に詳しい法律の専門家に相談することが重要です。

弁護士法人山本総合法律事務所は、群馬県内において屈指の規模と実績を持つ法律事務所です。長年にわたり高崎・群馬地域に密着したリーガルサービスを提供しており、労災に関する数多くのご相談に対応してきました。

後遺障害の等級認定に関する案件でも、豊富な対応実績を持ち、複雑な事案であっても複数の弁護士が連携し、チーム体制で一人ひとりに寄り添った丁寧な対応を行っています。

労災問題についてのご相談は、何度でも無料ですので、後遺症の認定や補償に不安がある方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

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