- 執筆者弁護士 山本哲也
ご依頼者様データ
ご依頼者様 | 60代男性(本庄市) |
職業(事故当時) | 派遣社員 |
業務内容 | 自動車のバッテリー製造業務 |
傷病名 | 右手2~4指の第3度熱傷、顔面、体幹、頸部の第2~3度熱傷 |
後遺症の内容 | 顔面部の火傷、手指の神経症状 |
後遺障害等級 | 第9級11号、第14級9号 |
災害の状況
自動車用バッテリーに使用する鉛製シート製造工程で鉛溶解釜から鉛を加工設備に供給するための樋に設置しているヒーターが破損しました。
破損したヒーターの交換作業を行うためには、ヒーター取付部に鉛酸化滓が多量に付着していたため、鉛酸化滓を除去する必要がありました。
依頼者と同僚において除去作業を行っている最中に何らかの原因で、溶融鉛が飛散してしまい、依頼者は、極めて高温の鉛を右手や顔面部に飛散することにより、熱傷を負ってしまいました。
相談・依頼のきっかけ
依頼者は、治療中に今後の流れについてどのようになるか不安であるということでご相談にお見えになりました。
当方から、まずは後遺障害の認定手続について説明し、後遺障害が認定された後に、相手方企業に安全配慮義務違反がある場合には、労災給付を超える部分について、損害賠償請求を行うことになると説明を行いました。
依頼者より、後遺障害の認定から示談交渉に至るまでお任せしたいとご要望があり、ご依頼となりました。
【参考】派遣社員の労災事故
解決方法
- 後遺障害等級認定サポート
- 相手方企業との示談交渉
- 訴訟
解決金額
労災支給額 | 約534万円 |
会社からの賠償額 | 約200万円 |
総額 | 約734万円 |
解決のポイント
受任後に労働局より、資料一式を取り寄せ、同資料を元に、相手方企業に請求可能な金額を算定しました。
算定の結果、相手方企業に一定額の賠償額を請求することが可能でしたので、内容証明郵便を送付し、交渉を開始しました。
交渉段階において、相手方企業は、「本件事故はグループ会社及び取引先の事故事例をヒアリングしても、一度も発生したことはない事故類型であり、溶融鉛が飛散することを予見することは不可能であり、賠償義務はない。」と主張しておりました。
当方から、交渉による解決を模索するべく何度か支払意思を確認しましたが、相手方企業は支払を拒否する姿勢を崩さなかったため、訴訟を提起することにしました。
裁判では、溶融鉛が飛散することを被告(相手方企業)が事故当時に予見できたかが大きな争点となりました。
事故当時、溶融鉛が飛散する化学的メカニズムは不明であり、この点が判断の中心になってしまうと原告にとっては非常に不利な判断になることが予想されました。
そのため、裁判の第1回期日において、「化学的メカニズムは問題ではなく、本件当時の職場環境や業務内容等に照らして、溶融鉛が飛散することが予見できるかが問題となる」と裁判官に伝え、予見対象を原告主張のとおりとすることが相当であると主張しました。
裁判は1年以上に及びましたが、裁判官は原告が主張する内容にも一定の理解を示したため、和解案が提示され、依頼者も早期解決を望んでいたため、和解により無事に解決となりました。
本件は、安全配慮義務違反の前提として、結果予見可能性の有無が争点となる難解な事案でしたが、依頼者と度重なる打ち合わせを行い、事故当時の職場環境や業務内容等を具体的に主張することによって一定程度の賠償額を獲得できた事案でした。
労働災害は、具体的な事故状況等によって相手方企業の責任の有無が決せられることが多いと思います。労働災害に遭ってしまい、企業に損害賠償を請求するか迷われている方は一度弁護士に相談していただくと良いかと思います。