- 執筆者弁護士 山本哲也

労災が認定されると、労災保険から給付を受けられます。しかし、発生した損害のすべてが補償されるわけではありません。
労災保険で補償されない分は会社に請求できます。会社に請求するときに問題になるのが「安全配慮義務違反」です。安全配慮義務とは、労働者が安全を確保して労働できるように、会社が必要な配慮をする義務をいいます。会社に安全配慮義務違反が認められるときは、損害賠償請求が可能です。
本記事では、安全配慮義務の意味や違反の例、会社に損害賠償を請求する方法などを解説しています。労災によるケガ・病気にお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
安全配慮義務違反とは?

安全配慮義務とは、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、使用者が必要な配慮をする義務です(労働契約法5条)。労働契約に伴って発生するとされます。
「生命・身体等の安全」には、身体面はもちろん精神面も含まれます。会社は事故等によるケガが起きないようにするだけでなく、従業員のメンタルヘルスにも配慮しなければなりません。
安全配慮義務は、かつて最高裁の判例により示され、後に法律に明記されました。労働契約法5条のほか、労働安全衛生法にも関連する定めが置かれています。
労働安全衛生法3条1項
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057#Mp-Ch_1-At_3
労働安全衛生法や労働安全衛生規則には、具体的に企業がとるべき措置も規定されています。例としては以下が挙げられます。
- 作業主任者の選任(法14条)
- 危険・健康障害防止のための措置(法20条以下)
- 機械等の自主検査(法45条)
- 安全衛生教育(法59条)
- 健康診断(法66条)
これらの規定は、安全配慮義務違反の有無を判断するにあたっても重要です。ただし、個々のケースにおける具体的な安全配慮義務の内容は、業種・業務内容・状況等によって異なります。
【参考】派遣社員の労災事故
安全配慮義務違反があった場合は会社に損害賠償を請求できる?

安全配慮義務違反があった際には、事故等により発生した損害につき、従業員は会社に賠償を請求できます。
労災で補償されない部分は請求可能
業務に関連する事故等による損害を補償する制度としては、労災保険(労災)があります。労災が認定されれば、所定の給付を受けられます。
もっとも、労災による補償は十分とはいえないのが実情です。休業損害は80%までしか支払われないなど補償が一部にとどまる費目があるほか、精神的損害に対する慰謝料に至っては一切支給されません。
労災でカバーされない損害は、会社への請求が可能です。安全配慮義務違反により損害賠償責任が発生する際には、残りの損害分を会社に請求しましょう。
請求の法的根拠
会社に損害賠償請求する際の法的根拠は、大きく分けて「債務不履行(民法415条)」と「不法行為(民法709条・715条)」です。
両者は遺族固有の慰謝料や遅延損害金の起算点などに違いがあります。かつては時効期間が異なっていましたが、2020年の民法改正により、通常であればいずれも事故等から5年となり、差がなくなっています。
いずれの法的根拠を選んでも構いませんが、どちらにしても主張する内容はさほど変わりません。
【参考】Q.他の従業員のミスが原因で怪我を負った場合、損害賠償請求はどうなる?
どのようなものが安全配慮義務違反になるのか

安全配慮義務違反とされる要件や典型例をご紹介します。
安全配慮義務違反の要件
安全配慮義務違反が認められる要件としては、以下が挙げられます。
労働契約
安全配慮義務が発生する前提として、会社と労働者との間に雇用関係(類する関係含む)が存在していなければなりません。正社員だけでなく、契約社員・パートタイマー・アルバイトなどでも、雇用契約を結んでいれば安全配慮義務の対象です。
派遣社員については、派遣元だけでなく、実際の作業を指示する立場にある派遣先も安全配慮義務を負います。請負や業務委託契約で働いている労働者についても、実質的に会社の指揮監督下にあれば安全配慮義務が認められる可能性があります。
【参考】労災における安全配慮義務違反とは?弁護士が事例を交えて解説
予見可能性・結果回避可能性
安全配慮義務違反が認定されるのは、労働者の心身が害される危険を予見でき、かつその結果を回避できる可能性があったのに、会社が十分な対策をとらなかった場合です。
たとえば、高所での作業や機械を用いた作業では事故の危険があると予想でき、研修や各種安全対策により事故を防止できるはずです。にもかかわらず十分な防止策をとらず、結果として事故が発生したのであれば、会社に責任が認められます。
通常考えられないような事故であった、過去にない規模の災害が発生したなど、予見可能性あるいは結果回避可能性が認められないときには、安全配慮義務違反とはなりません。
因果関係
損害との因果関係が認められないときには、会社に損害賠償責任を問えません。
労働者のケガや病気に他の原因があるときは、因果関係が否定される可能性があります。たとえば、メンタル不調の原因がプライベートにあったようなケースです。
一般的な労災事故では因果関係が明らかな場合が多いものの、長時間労働による脳・心臓疾患やハラスメントによる精神疾患では因果関係が問題になりやすいです。
安全配慮義務違反が認められる例
具体的に安全配慮義務違反が認められる典型例としては、以下のパターンがあります。
事故
わかりやすいのが工場や作業現場における事故です。例としては以下が挙げられます。
- 高所から転落した
- 機械で指を切断した
- 重機にひかれた
- 資材の下敷きになった
企業側の対策が不十分で事故が発生したのであれば、安全配慮義務違反が認められます。もっとも、会社としては万全の対策をとっていたのに従業員がふざけてケガをした場合など、損害賠償責任が発生しないケースもあります。
長時間労働
会社が従業員の長時間労働を見過ごしたときにも安全配慮義務違反となる可能性があります。安全配慮義務の一環として、会社には従業員の健康を管理する義務が課されています。
具体的には、長時間労働により脳・心臓疾患に罹患したケースや、精神疾患を発症したケースです。事故と比べると、業務と病気との間の因果関係が明らかとはいえないため、争いになりやすいです。
ハラスメント
ハラスメントが理由となる場合もあります。セクハラ・パワハラなどの防止策がとられていなかったり、発生時の対応が十分でなかったりすると、安全配慮義務違反となり得ます。
パワハラに伴う暴行によるケガや、ハラスメントを原因とした精神疾患・自殺などが対象です。会社の義務違反があったかだけでなく、とりわけ精神的な不調については因果関係の有無が問題となりやすいです。
【参考】労災における安全配慮義務違反とは?弁護士が事例を交えて解説
安全配慮義務違反で会社に損害賠償を請求する方法

安全配慮義務違反を理由に会社に損害賠償を請求する方法としては、交渉・労働審判・訴訟が挙げられます。
交渉
まずは会社に交渉を申し入れるのが一般的です。交渉でまとまれば早期解決が可能になるメリットがあります。
あっさり会社が非を認めてくれればいいですが、実際には簡単にいかないケースも少なくありません。請求額の算定が難しい点や、交渉そのものがストレスになる点も問題になります。そこで、交渉段階から弁護士を入れるのがオススメです。
労働審判
交渉でまとまらないときは、労働審判がひとつの選択肢になります。労働審判とは、裁判所において、労使間の争いを迅速に解決する手続きです。期日は原則として3回以内とされており、訴訟と比べると早い段階で結論が出ます。
もっとも、スピード感がある分、最初から証拠や主張をまとめて出さなければなりません。ご自身で進めるのは難しいため、弁護士に依頼するようにしましょう。
訴訟
労働審判でも双方が納得できないときは、訴訟に進みます。労働審判を経ずに、いきなり訴訟を提起しても構いません。
訴訟における判決には強制力があるため、最終的な解決ができます。もっとも、年単位の時間を要するおそれがあります。判決までいかず、訴訟の途中で和解して終了するケースも多いです。
訴訟は手続きが厳格で専門知識が不可欠であるため、弁護士に任せるのが安心です。
【参考】労災事故の対処方法③ 会社に損害賠償請求する際の注意点
まとめ

ここまで、労災における安全配慮義務違反について解説してきました。
労災保険で補償されない損害については、安全配慮義務違反を理由に会社に賠償請求できます。事故だけでなく、長時間労働やハラスメントを理由とした損害賠償請求も可能です。請求は、交渉・労働審判・訴訟といった方法でなされます。
会社の安全配慮義務違反を主張したい方は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。
当事務所は、群馬県内でも規模が大きい弁護士事務所のひとつです。これまで、群馬・高崎に密着して、地域の皆様から労災に関する数多くの相談を受けて参りました。会社への請求に関しても豊富な経験・知見があり、難しいご依頼でも弁護士がチームを組んで対応するなど、皆様を徹底的にサポートいたします。
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