- 執筆者弁護士 山本哲也

業務中に事故や病気が発生したとき、企業の「安全配慮義務違反」が原因であれば、労災認定や損害賠償請求につながることがあります。
本記事では、安全配慮義務の基本から、違反とされる具体例、労災認定や損害賠償請求のポイントまで、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
労働災害でお困りの方や、企業の対応に不安を感じている方は、ぜひご一読ください。
安全配慮義務とは?

まずは、安全配慮義務がどのような法的義務であるかを確認しておきましょう。
これはすべての企業に課されるもので、従業員の命や健康を守るための基本的な義務です。単なる労働環境の整備だけでなく、従業員が心身ともに安心して働ける職場づくりが求められます。
企業に課せられた安全配慮義務の内容
安全配慮義務とは、労働契約に付随する義務の一つで、企業が労働者の生命・身体・精神の安全を確保するために必要な配慮を行うことを求めるものです。
労働契約法第5条でも、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」と定められています。
具体的には、以下のような措置が該当します。
- 労働災害を防ぐための安全教育やマニュアルの整備
- 過重労働を防ぐ労働時間管理や業務量の調整
- ハラスメント防止対策や相談窓口の設置
- 災害や緊急時の避難体制や安全確認
これらを怠った結果、従業員が怪我や病気になった場合、企業は安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があります。
なお、労働契約法には罰則規定がないため、この義務に違反しても行政処分などの直接的な制裁は科されません。ただし、重大な義務違反があると判断された場合には、民法上の損害賠償責任(債務不履行または不法行為)を企業が負うことになります。
【参考】労働災害に関する弁護士費用
安全配慮義務違反となる具体例
実際に問題となるケースとしては、次のようなものが挙げられます。
- 危険性のある作業に対して適切なマニュアルや防具が用意されていない
- 業務量が過大であり、慢性的な長時間労働を強いていた
- 社内のいじめやハラスメントについて通報を受けても、組織として対応を怠った
- 心の健康に配慮せず、精神疾患に関する支援体制を整えていなかった
安全配慮義務違反で労災が認められるケース

安全配慮義務違反が明らかであっても、労災として認められるには「業務起因性」が必要です。義務違反と業務との因果関係が明確な場合には、認定されやすくなります。
ここでは、特に典型的な二つの事例を取り上げてご紹介します。
ケース1:過重労働によりうつ病を発症し自殺
労働時間の管理を怠った結果、従業員が精神疾患を発症し、最終的には自死に至った事例は、過労死・過労自殺の代表的ケースとして知られています。
このケースでは、企業が長時間労働の実態を把握していながら改善せず、結果的に労働者の命を失わせたことから、安全配慮義務違反が認められました。
遺族には労災保険による補償とあわせて、企業に対する損害賠償(逸失利益・慰謝料など)が認められた事例です。
ケース2:職場いじめの放置で精神疾患を発症
近年増加しているのが、職場でのいじめやパワハラによる精神疾患の労災です。
上司の叱責、無視、嫌がらせなどが繰り返され、職場の人間関係がストレスとなり精神的に追い詰められてしまうケースです。
企業がそのような相談を受けても対応を怠り、結果として被害が深刻化した場合、安全配慮義務違反と判断されることが少なくありません。実際に損害賠償や慰謝料の支払いが命じられた判決も出ています。
【参考】右環指、小指切断で10級6号が認定され、約1211万円が補償された事例
労災認定のポイント
労災を申請しても、すべてが認定されるわけではありません。申請にあたっては「業務に起因するものかどうか」が重要な判断基準になります。
また、証拠の有無が結果を左右するため、事前の準備が欠かせません。
業務との因果関係を証明するには

労災保険制度では、「業務起因性」と「業務遂行性」が認められない限り、労災とは認定されません。
業務中の事故であれば証明は比較的容易ですが、精神疾患などの場合は業務内容や職場環境との関連性を客観的に立証する必要があります。業務内容や勤務時間、日々の行動記録など、できる限り具体的な情報を収集しておくことが大切です。
証拠収集の重要性
労災や安全配慮義務違反の責任を追及するためには、何よりも証拠が重要です。
例えば以下のような資料が役立つでしょう。
- タイムカードや勤怠表、シフト表
- 上司とのメールやチャットの履歴
- 医師の診断書やカウンセリング記録
- 録音、写真、メモなどの一次情報
証拠が十分に集まれば、企業側に反論の余地を与えず、早期解決に繋がる可能性も高まります。
【参考】労災事故の対処方法① 事故直後・治療中の方がすべきこと
安全配慮義務違反に対する損害賠償請求

労災として認定されても、それだけでは被害回復に十分とはいえないケースはめずらしくありません。特に企業に明確な落ち度があった場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が検討されます。
この損害賠償は、民法第415条に基づく債務不履行責任として請求するケースが一般的ですが、安全配慮義務違反が違法な行為と評価される場合には、民法第709条に基づく不法行為責任を追及することも可能です。実務では両者を併用して主張することもあります。
請求できる損害の種類
民事上の損害賠償として請求できる主な損害は、次のとおりです。
- 治療費(病院代、通院費など)
- 休業中の給与補填や逸失利益(将来得られるはずだった収入)
- 後遺障害が残った場合の将来介護費や生活支援費
- 仕事を失った場合の転職費用や職業訓練費用
これらの金額は被害者の年齢、職業、損害の内容などに応じて大きく異なるため、正確な算出には専門的な知識が必要です。
慰謝料請求
精神的苦痛に対する「慰謝料」も、企業に請求可能です。慰謝料の金額は、被害の程度、企業の対応の悪質さ、回復の見込みなどによっても異なります。
例えば、企業が長期間にわたって危険な環境を放置していた場合や、被害の訴えに対し真摯な対応をしなかった場合には、高額の慰謝料が認められる可能性があります。
【参考】労災事故の対処方法③ 会社に損害賠償請求する際の注意点
業務中の怪我による労災は弁護士に相談を

安全配慮義務違反が関係する労災では、申請や損害賠償請求が複雑になるケースが多く、被害者自身で対応するのは困難です。
また、企業と対等に交渉するためには、労働災害に詳しい弁護士のサポートが不可欠です。
山本総合法律事務所では、安全配慮義務違反を原因とする労災や損害賠償請求について、被害者の方の立場に立った丁寧な対応を行っております。
業務中の怪我や精神的な不調、企業側の対応への不信感など、どのような段階でもご相談いただけます。
専門知識と経験に基づき、交渉や証拠収集、訴訟対応まで一貫してサポートいたしますので、安心してご依頼ください。
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