労災の後遺障害11級

労災の後遺障害11級

仕事中の事故でケガを負い、治療後も体に後遺症が残ってしまった場合、後遺障害等級認定を受けることで、労災保険から補償を受けることが可能です。認定された等級に応じて補償内容や金額が変わってきますので、適正な後遺障害等級の認定を受けることが重要です。

本記事では、労災の後遺障害11級に該当する認定基準や受け取れる給付の内容、認定された実例などをわかりやすく解説します。

労災に遭われた方に知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。

労災の後遺障害等級とは?

労災の後遺障害等級とは?

労災による傷病の治療を続けて、完全に元の状態に戻るとは限りません。治療を継続しても完治せず、身体に一定の障害が残るときは、「後遺障害等級」が認定され、労災保険から補償が受けられる可能性があります。

後遺障害等級は1級から14級まであり、等級が低いほど(数字が小さいほど)障害の程度が重いとされ、給付額も高くなります。

後遺障害等級が認定されるということは、仕事や日常生活にさまざまな支障が生じることになりますので、そのような不利益を少しでも緩和するためにも適正な後遺障害等級認定を受けて、十分な補償を受け取ることが重要です。

後遺障害11級の認定基準

後遺障害11級の認定基準

後遺障害等級11級が認定される症状には、以下のようなものがあります。労災で後遺障害等級認定を受けるには、認定基準に該当する必要がありますので、症状ごとの認定基準を押さえておくことが大切です。

両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの

眼球に著しい調節機能障害を残すものとは、目のピントを合わせる機能が通常の2分の1以下になった状態をいいます。両眼を受傷したときは、年齢別の調節力を示す以下の表との比較により判断します。

年齢1520253035404550556065
調節力9.79.07.66.35.34.43.12.21.51.351.3

眼球に著しい運動障害を残すものとは、眼球の注視野の広さが2分の1以下になった状態をいいます。注視野とは、頭を固定し、眼球を運動させて直視できる範囲をいい、単眼で各方面50度、両眼で各方面45度が平均的な数値です。

両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの

まぶたに著しい運動障害を残すものとは、普通にまぶたを開いたときに瞳孔領(黒目の中心)を完全に覆うものまたは普通にまぶたを閉じたときに角膜(黒目)を完全に覆うことができないものをいいます。

1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

まぶたに著しい欠損を残すものとは、普通にまぶたを閉じたときに、角膜(黒目)を完全に覆うことができない程度のものをいいます。

10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

「歯科補てつ」とは、失った歯または4分の3以上欠けた歯を、人工物で補うことです。たとえば、差し歯、ブリッジ、インプラントなどがこれにあたります。

10本以上の歯に歯科補てつをしたときに11級が認定されます。

両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度とは、両耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上である状態をいいます。

1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度とは、以下のいずれかの状態をいいます。

  • 1耳の平均純音聴力レベルが70㏈以上80㏈未満のもの
  • 1耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上かつ最高明瞭度が50%以下のもの

(7)せき柱に変形を残すもの

脊柱に変形を残すものとは、以下のいずれかに該当する状態をいいます。

  • せき椎圧迫骨折等を残し、それがエックス線写真等により確認できるもの
  • せき椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかのせき椎に吸収されたものを除く)
  • 3個以上のせき椎に椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの

1手の示指、中指又は環指を失つたもの

人差し指、中指、薬指のうちのいずれか1本が以下のいずれかの状態になった場合です。

  • 手指を中手骨または基節骨で切断したもの
  • 近位指節間関節において、基節骨と中節骨とを離断したもの

1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの

足指の用を廃したものとは、以下のいずれかの場合をいいます。

  • 第1の足指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの
  • 第1の足指以外の足指を中節骨もしくは基節骨を切断したものまたは遠位指節間関節もしくは近位指節間関節において離断したもの
  • 中足指節関節または近位指節間関節(第1の足指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

胸腹部臓器の障害は、呼吸器、循環器、腹部臓器、泌尿器、生殖器の5つの部位に分けられます。

呼吸器の障害

呼吸機能の障害は、「動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定」、「スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による判定」「運動負荷試験の結果による判定」により判断します。

【動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定】

動脈血酸素分圧が70Torrを超え、動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの

【スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による判定】

以下のいずれかに該当する場合をいいます。

  • スパイロメトリーの結果が1秒量あたり35%以下または肺活量が40%以下の場合で、呼吸困難の程度が軽度(呼吸困難のため、健常者と同様には階段の昇降ができないもの)の場合
  • スパイロメトリーの結果が1秒量あたり55~70%または肺活量が60~80%以下の場合

【運動負荷試験の結果による判定】

呼吸機能の低下による呼吸困難が認められ、運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害があると認められるもの

循環器の障害

循環器の障害が後遺障害11級と認められるのは、以下の場合です。

  • 心機能低下により概ね8METsを超える強度の身体活動が制限されるもの
    (例:平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動に支障がないものの、それ以上激しいか、急激な身体活動が制限されるもの)
  • 房室弁又は大動脈弁の置換をした場合、継続的に抗凝血薬療法を行うもの以外のもの
  • 大動脈に偽腔開存型の解離を残すもの

腹部臓器の障害

【胃の障害】

胃の全部または一部を失ったことによる障害は、そのことにより生じる症状の有無により等級認定が行われます。後遺障害11級が認定されるのは、以下の症状です。

消化吸収障害ダインピング症候群胃切除術後逆流性食道炎
第11級ありなしなし
なしありなし
なしなしあり

【小腸および大腸の障害】

小腸および大腸の障害が後遺障害11級と認められるのは、以下の場合です。

  • 小腸を大量に切除し、残存する空腸および回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったもので、消化吸収障害が認められるもの
  • 結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したもの
  • 小腸(または大腸)の皮膚瘻を残し、瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸(または大腸)内容が漏出する程度のもの
  • 小腸(または大腸)の狭さくを残すもの
  • 便秘を残すもののうち、用手摘便を要しないもの
  • 常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるもの

【肝臓の障害】

肝臓の障害のうち、慢性肝炎になったものについては後遺障害11級が認定されます。

【すい臓の障害】

外分泌機能の障害または内分泌機能の障害のいずれかが認められるものについては後遺障害11級が認定されます。

【腹壁瘢痕ヘルニア等を残すもの】

重激な業務に従事した場合等腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの

泌尿器の障害

泌尿器の障害は、じん臓、尿管・膀胱・尿道の障害に分けられます。

【じん臓の障害】

じん臓の障害は、一側のじん臓を失った場合と失っていない場合で区分し、腎臓機能の低下の程度(GFRで判定)により等級を認定します。じん臓の障害で後遺障害11級が認定されるのは、以下の場合です。

  • 腎臓を失った場合で、GFR値が71ml/分~90ml/分であるもの
  • 腎臓を失っていない場合で、GFR値が51ml/分~70ml/分であるもの

【尿管・膀胱・尿道の障害】

尿管・膀胱・尿道の障害で後遺障害11級が認定されるのは、以下の場合です。

  • 外尿道口形成術を行ったもの
  • 尿道カテーテルを留置したもの
  • 残尿が50ml以上100ml未満であるもの
  • 尿道狭窄のため、糸状ブジーを必要とするもの
  • 切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため、常時パッド等を装着は要しないが、下着が少しぬれるもの
  • 頻尿を残すもの

生殖器の障害

狭骨盤または比較的狭骨盤(産科的真結合線が10.5cm未満または入口部横径が11.5cm未満のもの)となれば後遺障害11級が認定されます。

【参考】労災の後遺障害 10 級とは?適正な補償を受けとるために

後遺障害11級で受け取れる給付

後遺障害11級で受け取れる給付

労災による傷病で後遺障害11級が認定されると、労災保険から以下のような補償が支給されます。

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、労災による傷病で障害が残った場合に支給される補償です。障害(補償)給付には、障害の程度に応じて「障害(補償)年金」と「障害(補償)一時金」の2種類がありますが、後遺障害11級の場合は、障害(補償)一時金が支払われます。

具体的な金額は、給付基礎日額の223日分です。

給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいい、労災事故発生日の直前3か月間に労働者に支払われた金額の総額をその期間の歴日数で割った、1日あたりの賃金額を指します。

障害特別支給金

障害特別支給金とは、労働者災害補償保険法29条の社会復帰促進等事業の一環として支払われる補償で、労災保険給付に上乗せして一時金として支払われます。障害特別支給金は、障害の程度に応じて金額が定められており、後遺障害11級の場合は、29万円になります。

障害特別一時金

障害特別一時金とは、障害特別支給金と同様に労災保険給付に上乗せして支払われる補償で、障害の程度に応じて一時金として支払われます。

後遺障害11級の場合は、算定基礎日額の223日分です。

算定基礎日額とは、労災事故発生日前の1年間に労働者に支払われた特別給与の総額(算定基礎年額)を365日で割った、1日あたりの賃金額です。

特別給与とは、ボーナスや期末手当など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金をいい、臨時に支払われた賃金は含まれません。

【参考】労災保険の給付では不十分?

労災の後遺障害11級認定の事例

フォークリフト作業をしている人

【事例】

フォークリフトの作業中に足指を切断、後遺障害11級8号が認定されたケース

ご依頼者様:60代男性(事故当時は派遣社員)

業務内容:倉庫内にてフォークリフトを使用した荷下ろし・運搬作業

傷病名:第1~第4趾開放性末節骨骨折・挫滅

後遺症:足指の切断、切断部の疼痛

認定等級:後遺障害等級11級8号(一足の第一足指を含み二以上の足指の用を廃したもの)

【事故の概要】

ご依頼者様は倉庫での業務中、フォークリフトの爪幅を調整しようとしていたところ、ストッパーが取り付けられていない状態に気づかずに作業を続けたため、爪が外れ足に落下。第1~第4足指を切断する重傷を負いました。

【ご相談内容】

主治医からは別の等級が示唆されていたため、11級8号の認定が妥当か確認したいとのことでご相談に来所。また、派遣先の会社とは慰謝料や過失割合について話し合いをしていたものの、具体的な金額提示がなく、賠償の適正額についてもアドバイスを求められました。

【解決までの流れと結果】

弁護士による認定等級の妥当性の検討の結果、11級8号の認定は妥当と判断。等級を前提に賠償交渉を開始しました。会社側は当初、被害者側に5割の過失があると主張しましたが、事故時の作業実態やフォークリフトの整備不備などの事情を根拠に反論し、最終的には過失割合を2割まで減少させることに成功。

結果、労災から約340万円、会社からの賠償金として約620万円、合計約960万円の補償を得ることができました。

【参考】11級8号が認定され、約920万円が補償された事例

適切な後遺障害等級認定を受ける重要性

弁護士が人差し指を立てている様子

労災保険による補償は、認定された後遺障害等級に応じて補償内容や金額が決められますので、後遺障害等級認定は、労災保険給付の金額を左右する重要なポイントになります。

また、会社に対して損害賠償請求をする際には、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求することができますが、その場合も後遺障害等級に応じて金額が算定されますので、誤った等級が認定されると、本来受け取れるはずの補償額が大きく減額されてしまうリスクがあります。

このようなリスクを回避して、適正な後遺障害等級認定を受けるには、労災や後遺障害認定に精通した弁護士によるサポートが不可欠です。そのため、労災により何らかの障害が残ってしまったときは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

【参考】Q.労災に遭ったが、今後の流れが分からない

労災事故の後遺障害は詳しい弁護士に相談を

集合写真

後遺障害11級に該当する症状にはさまざまなものがありますが、それぞれ細かな認定基準が設けられていますので、知識や経験がなければ適正な後遺障害等級の獲得は困難です。

誤った等級が認定されてしまうと、その後の補償額にも影響が生じますので、早い段階で労災や後遺障害認定に精通した弁護士に相談する必要があります。

弁護士法人山本総合法律事務所は、群馬県内でも有数の規模を誇る法律事務所の一つです。

これまで、群馬・高崎地域に根差した活動を続け、多くの方々から労災に関するご相談をお受けしてきました。

後遺障害の等級認定についても多数の対応実績があり、難しい案件においても、弁護士が連携してチーム体制で丁寧に対応いたします。

労災問題に関するご相談は何度でも無料ですので、お悩みの方はぜひお気軽に当事務所へご連絡ください。

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