過労死の労災認定と会社への損害賠償請求

過労死の労災認定と会社への損害賠償請求

長時間労働により過労死に至った場合、労災が認定される可能性があります。認定がおりれば、遺族は給付を受け取れます。労災からの給付でカバーされない損害については、会社への賠償請求が可能です。

本記事では、過労死が労災として認定される基準や遺族への補償内容、会社に対する損害賠償請求などについて解説しています。業務過多が原因で大切なご家族を亡くなされた方に知っていただきたい内容となっておりますので、ぜひ最後までお読みください。

過労死とは

過労死とは

過労死とは、大まかにいえば「働き過ぎにより亡くなってしまうこと」です。

法律上の過労死の定義は、過労死等防止対策推進法に規定されています。

過労死等防止対策推進法2条

この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000100/#Mp-Ch_1-At_2

ややわかりづらい表現ですが、次のような例が挙げられます。

  • 長時間労働が原因で脳梗塞や心筋梗塞を発症し、死亡した
  • 業務により強い精神的負荷がかかったためにうつ病を発症し、自殺した

精神疾患により自殺に追い込まれたときは「過労自殺」とも呼ばれます。過労自殺については別記事で扱いますので、本記事では主に過重労働による脳・心臓疾患を念頭に解説します。

過労死が労災として認められる条件・基準

過労死が労災として認められる条件・基準

過労死は大きな社会問題となっており、労災認定に至るケースも数多く存在します(参考:令和6年度「過労死等の労災補償状況」|厚生労働省)。

労災認定を受けるには、対象となる脳・心臓疾患を発症しており、その原因として「業務による明らかな過重負荷」が認められる必要があります(以下参考:脳・心臓疾患の労災認定|厚生労働省)。

〈H3〉対象となる脳・心臓疾患

過労死で労災認定を受けるには、前提として、対象となる脳・心臓疾患を発症していたことが要件になります。

対象疾患は以下の通りです。

脳血管疾患・脳内出血(脳出血)
・くも膜下出血
・脳梗塞・高血圧性脳症
虚血性心疾患等・心筋梗塞
・狭心症
・心停止(心臓性突然死を含む)
・重篤な心不全・大動脈解離

業務による明らかな過重負荷が認められる

対象となる疾患を発症していたとしても、本人の持病や生活習慣などが原因になっている可能性があります。仕事が原因だとして労災認定を受けるには、業務による明らかな過重負荷が認められなければなりません。

業務による明らかな過重負荷が認められるのは、次の3パターンです。

長期間の過重業務

まずは、発症前の長期間(おおむね6ヶ月)にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労した場合です。該当するかは、労働時間にその他の要素を加味して判断されます。

労働時間については、以下のいずれかに当てはまると業務と発症との関連性が強いとされます。

  • 発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働
  • 発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働

労働時間が上記水準に至っていなくても近い水準にあるときは、他の負荷要因も考慮して業務との関連性が強いと判断される可能性があります。労働時間以外の負荷要因の例は以下の通りです。

  • 勤務時間が不規則(連続勤務、インターバルが短い、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務など)
  • 出張が多い
  • 心理的負荷を伴う(危険性高い、困難なノルマ、新規事業、クレーム対応、配置転換、ハラスメントなど)
  • 身体的負荷を伴う(重量物の運搬、人力での掘削作業など)
  • 作業環境が厳しい(温度、騒音など)

労働時間だけでなく、他の要因も含めて業務と発症との関係が判断されます。

短期間の過重業務

発症に近接した期間(おおむね1週間)に特に過重な業務に就労したときも、業務による明らかな過重負荷が認められます。

「長期間の過重労働」の場合と同様に、労働時間の長さに、他の要素を合わせて総合的に判断されます。労働時間については、以下に該当すれば業務と発症との関連性が強いとされます。

  • 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる
  • 発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる

他の判断要素については、「長期間の過重労働」のときと同様です。

異常な出来事

発症直前から前日までの間に、時間や場所を明確に特定できる「異常な出来事」があったときにも、業務による明らかな過重負荷が認められます。

「異常な出来事」の例は以下の通りです。

  • 精神的負荷(業務に関連する重大事故に直接関与したなど)
  • 身体的負荷(著しい身体的負荷を伴う消火、除雪、身体訓練、走行など)
  • 作業環境の変化(著しく暑熱な環境下で水分補給が阻害されたなど)

労働時間にかかわらず、発症直前に著しく負荷が大きい出来事を経験していると業務との関係が認められます。

【参考】労災事故の対処方法③ 会社に損害賠償請求する際の注意点

家族が過労死で亡くなった場合の遺族への補償

仏花

家族が過労死で亡くなり労災が認定されると、労災保険から給付を受けられます。遺族が受け取れるのは「遺族補償給付」と「葬祭給付」です。

遺族補償給付は、生計維持関係にあった遺族の有無・人数によって内容が異なります。生計維持関係にある遺族がいれば年金として支給され、いなければ一時金として支給されます。

生計維持関係にある遺族とは、「死亡した労働者の収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹」です。なお、妻以外については、「60歳以上」あるいは「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間(簡単にいえば高校生まで)」という年齢制限があります。年齢が要件を満たさなくとも、一定の障害状態にあれば対象になります。

支給される遺族補償給付と金額は以下の通りです。

生計維持関係にある遺族 給付の名称金額
1人 遺族補償年金 平均賃金153日分の年金(※)
遺族特別年金 ボーナス153日分の年金(※)
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
2人 遺族補償年金 平均賃金201日分の年金
遺族特別年金 ボーナス201日分の年金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
3人 遺族補償年金 平均賃金223日分の年金
遺族特別年金 ボーナス223日分の年金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
4人以上 遺族補償年金 平均賃金245日分の年金
遺族特別年金 ボーナス245日分の年金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
いない 遺族補償一時金 平均賃金1000日分の一時金
遺族特別一時金 ボーナス1000日分の一時金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)

※遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分

葬祭給付としては「31万5000円+平均賃金30日分」と「平均賃金60日分」の多い方が支給されます。

遺族補償給付は亡くなった日の翌日から5年、葬祭給付は亡くなった日の翌日から2年経過すると、時効にかかり請求権が消滅してしまいます。早めに請求するようにしましょう。

【参考】労災における安全配慮義務違反とは?弁護士が事例を交えて解説

会社に対して慰謝料・損害賠償は請求できるか

悩んでる男性

労災では、給付内容が定型化されており、すべての損害が補償されるわけではありません。精神的損害に対する慰謝料が一切支給されないなど、不十分な点があります。

労災から支給されない損害については、会社に対して請求できます。根拠となるのが「安全配慮義務違反」です。会社には、従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務があり、安全配慮義務と呼ばれます。

過労死のケースでは、安全配慮義務のうち健康管理義務が問題になるでしょう。会社には長時間労働等で従業員に過度な負担が生じる事態を避けるように配慮する義務があり、過労死に至っているときは義務違反が認められる可能性があります。

会社に安全配慮義務違反が認められるときは、労災でカバーされない損害について賠償請求ができます。

【参考】労災における安全配慮義務違反とは?会社に損害賠償請求できる?

会社に訴訟をする際のポイント

ポイント

会社に訴訟を提起する際には、安全配慮義務違反を主張・立証するのがポイントです。

とりわけ重要なのが労働時間に関する証拠です。労災認定の際にも重要になりますが、タイムカード、入退室記録、PCのログなどから労働時間を立証する必要があります。労働時間の他にも、業務負荷が大きいことを示す証拠を提出しなければなりません。

訴訟では証拠に基づいて適切な主張をすることが不可欠です。とはいえ、ご自身で証拠を収集して法的主張を組み立てるのは難しいでしょう。弁護士に依頼し、手続き全般も含めて任せてしまうのがオススメです。

【参考】労働災害を弁護士に相談すべき3つの理由

まとめ

集合写真

ここまで、過労死が労災に認定される基準や受け取れる給付、会社への請求などについて解説してきました。

労働時間が長いなど、著しく過酷な業務を強いられていたことが原因となって過労死に至っていれば、労災が認定される可能性があります。労災からの給付だけでなく、カバーされない損害については会社に賠償請求ができます。証拠がなくなる前に、できるだけ早めに動くのが重要です。

大切なご家族を過労死で亡くされた方は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。

当事務所は、群馬県内でも規模が大きい弁護士事務所のひとつです。これまで、群馬・高崎に密着して、地域の皆様から労災に関する数多くの相談を受けて参りました。過労死に関しても知見があり、難しいご依頼でも弁護士がチームを組んで対応するなど、皆様を徹底的にサポートいたします。

当事務所では、労災に関する相談を何度でも無料としております。大切なご家族を過労死で亡くされた方は、まずはお問い合わせください。

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