過労自殺の労災認定と会社への損害賠償請求

過労自殺の労災認定と会社への損害賠償請求

過労自殺により大切なご家族を亡くされた場合、労災が認定される可能性があります。労災だけでカバーされない損害については、会社への賠償請求もできます。

本記事では、過労自殺が労災として認められる基準、遺族が受け取れる給付、会社に対する損害賠償請求などについて解説しています。業務を原因とする精神疾患により大切なご家族を亡くされた方に知っていただきたい内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

過労自殺とは

過労自殺とは

過労自殺とは、業務により生じた精神疾患を原因とする自殺をいいます。仕事で強い心理的な負荷を受けたために自殺に追い込まれたケースです。

「過労死」は主に長時間労働等を原因とする脳・心臓疾患(身体面)を指す場合が多いのに対し、過労自殺は精神的に追い込まれたケースを意味します。

過労自殺が労災として認められる条件・基準

過労自殺が労災として認められる条件・基準

過労自殺は要件を満たせば労災に該当します。実際に、精神疾患による自殺(未遂含む)で年80件程度が労災として認定されています。もっとも、認定率は40%台と低いです(参考:業務災害に係る精神障害の労災補償状況|厚生労働省)。

認定を受けるためには、基準を知っておく必要があります。要件は次の3つです(以下参考:精神障害の労災認定|厚生労働省)。

  1. 対象となる精神障害を発病していた
  2. 発病前のおおむね6ヶ月間に業務による強い心理的負荷が認められる
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められない

過労自殺が労災と認定されるには、3つの要件をすべて満たさなければなりません。順に解説します。

対象となる精神疾患

まずは、対象となる精神障害を発病していることが前提となります。

対象となる主な精神障害は以下の通りです。

  • うつ病
  • 適応障害
  • 急性ストレス反応
  • 統合失調症

多くの精神疾患が対象となっていますが、認知症や頭部外傷による障害、アルコール依存症などは対象外です。

精神疾患を発病していた事実は、病院に通院していて診断を受けていれば証明できます。もっとも、現実には病院に行ってすらいないケースが少なくありません。通院歴がないときは、本人の日記・SNS、周囲の人の証言などから症状を立証していく必要があります。

業務による強い心理的負荷

次に、発病前のおおむね6ヶ月の間に起きた業務による出来事について、強い心理的負荷が生じるものと認められなければなりません。

まず、以下のような「特別な出来事」が存在したときは、ただちに強い心理的負荷があったと認められます。

  • 生死にかかわる業務上の病気やケガ
  • 強姦や本人の意思を抑圧したわいせつ行為などの重度のセクハラ
  • 発病直前の1ヶ月におおむね160時間を超えるような時間外労働

特別な出来事が存在しなくとも、心理的負荷が「強」と判断される場合があります。「強」とされるのは、例えば以下の出来事です。

・発病直前の連続した2ヶ月間(3ヶ月間)に、1ヶ月あたりおおむね120時間(100時間)以上の時間外労働をした

  • 1ヶ月以上にわたって連続勤務を行った
  • 退職する意思がないと表明しているのに退職を強要された
  • 上司や同僚から治療を要する程度の暴行を受けた
  • 胸や腰への身体接触を含むセクハラを継続して受けた

単独で心理的負荷が「強」に該当する出来事がないときでも、「中」が複数重なった結果、「強」と判断されるケースもあります。

業務以外の要因によるものでない

業務以外の要因により精神疾患を発症したときには、労災とは認定されません。

たとえば、離婚や重い病気といった事情があれば、プライベートでの心理的負荷が原因であるとされる可能性があります。また、精神障害の既往歴がある、アルコール依存であるといったときは、個体側の要因による発病だと判断される場合があります。

【参考】労災における安全配慮義務違反とは?会社に損害賠償請求できる?

家族が過労自殺で亡くなった場合の遺族への補償

お金と電卓

上記3つの要件を満たして過労自殺が労災だと認定されると、遺族に補償がなされます。受けられる給付は、大きく分けると、「遺族補償給付」と「葬祭給付」の2種類です。

遺族補償給付

遺族補償給付は、遺族の生活のための給付です。生計維持関係にあった遺族の有無や人数によって、給付内容が変わります。「生計維持関係にある遺族」がいれば年金として、いなければ一時金として支給されます。

「生計維持関係にある遺族」とは、「死亡した労働者の収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹」です。妻以外については、「60歳以上」あるいは「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間(≒高校生まで)」という年齢制限があります。年齢が要件を満たさなくとも、一定の障害状態にあれば対象としてカウントされます。

支給される遺族補償給付と金額は、生計維持関係にある遺族の有無や人数に応じて以下の通りです。

生計維持関係にある遺族 給付の名称金額
1人 遺族補償年金 平均賃金153日分の年金(※)
遺族特別年金 ボーナス153日分の年金(※)
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
2人 遺族補償年金 平均賃金201日分の年金
遺族特別年金 ボーナス201日分の年金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
3人 遺族補償年金 平均賃金223日分の年金
遺族特別年金 ボーナス223日分の年金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
4人以上 遺族補償年金 平均賃金245日分の年金
遺族特別年金 ボーナス245日分の年金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)
いない 遺族補償一時金 平均賃金1000日分の一時金
遺族特別一時金 ボーナス1000日分の一時金
遺族特別支給金 300万円(定額・一時金)

※遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分

遺族補償給付は亡くなった日の翌日から5年で時効にかかり、請求権が消滅してしまいます。期間を過ぎると一切支給されなくなるため、早めに請求する必要があります。

葬祭給付

葬祭給付は、葬儀費用をまかなうための給付です。

金額は「31万5000円+平均賃金30日分」と「平均賃金60日分」の多い方となります。

葬祭給付の時効は、亡くなった日の翌日から2年です。遺族補償給付よりも短いので注意してください。

【参考】労災における安全配慮義務違反とは?弁護士が事例を交えて解説

会社に対して慰謝料・損害賠償は請求できるか

損害賠償請求

労災による補償は、過労自殺に伴うすべての損害に対してなされるわけではありません。損害の一部しか補償されず、とりわけ精神的苦痛に対する慰謝料は一切支給されません。

労災でカバーされない損害については、会社に賠償を請求できます。会社に請求する根拠が「安全配慮義務違反」です。

会社には、従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務があります。「生命・身体等」には、メンタル面も含まれます。

過労自殺のケースでは、労働時間を適切に管理していない、ハラスメント防止策をとっていないといった点が安全配慮義務違反となり得るでしょう。会社に請求する際には、いかなる点が安全配慮義務違反となるかを主張・立証しなければなりません。

【参考】過労死の労災認定と会社への損害賠償請求

会社が過労自殺を認めてくれない場合

泣いてる女性

転落等の事故が発生したケースとは異なり、過労自殺の場合には、業務との関係が必ずしも明確ではありません。そのため、会社が過労自殺の責任を認めない場合も多いです。

話し合いをしても会社が責任を認めず補償に応じないときには、訴訟の提起が考えられます。訴訟で裁判所に主張を認めてもらえれば、会社に責任をとらせることができます。

訴訟の際にポイントになるのは証拠です。労働時間、ハラスメントの実態などを、各種証拠から証明する必要があります。

証拠は労災認定にあたっても重要ですが、一般の方がご自身で収集し、法的主張をするのは容易ではありません。そこで、弁護士への依頼がオススメです。

大切なご家族を亡くされた状態で会社とのやりとりや各種法的手続きを進めるのは、肉体的・精神的に困難を伴います。弁護士に手続きを任せれば、金銭的な補償を得やすくなるだけでなく、物理的・精神的な負担が軽減されます。弁護士への相談・依頼をご検討ください。

【参考】労働災害を弁護士に相談すべき3つの理由

まとめ

集合写真

ここまで、過労自殺について、労災の認定基準や補償内容、会社への損害賠償請求などを解説してきました。

要件を満たしていれば、過労自殺が労災として認定され、補償を受けられます。労災でカバーされない分は、会社に請求しましょう。

大切なご家族を過労自殺で亡くされた方は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。

当事務所は、群馬県内でも規模が大きい弁護士事務所のひとつです。これまで、群馬・高崎に密着して、地域の皆様から労災に関する数多くの相談を受けて参りました。過労自殺に関しても知見があり、難しいご依頼でも弁護士がチームを組んで対応するなど、皆様を徹底的にサポートいたします。

当事務所では、労災に関する相談を何度でも無料としております。大切なご家族を過労自殺で亡くされた方は、まずはお問い合わせください。

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