肺がんや中皮腫などのアスベスト(石綿)を原因とする病気は、長い潜伏期間を経てから発症するため、アスベスト(石綿)による健康被害を訴える人が今も増え続けています。過去にアスベスト(石綿)に関連する仕事に就いていた方は、国に対する給付金申請または会社に対する損害賠償請求ができる可能性があります。
アスベスト(石綿)による被害を回復するためにも、しっかりと給付金申請や損害賠償請求を行っていくようにしましょう。
今回は、アスベスト(石綿)健康被害に関する給付金申請や損害賠償請求の流れについてわかりやすく解説します。
アスベスト(石綿)健康被害とは
アスベスト(石綿)健康被害とは、飛散したアスベスト(石綿)を吸い込むことにより、以下のような病気を発症することをいいます。
- 石綿肺
- 悪性中皮腫
- 肺がん
- びまん性胸膜肥厚
- 良性石綿胸水
アスベスト(石綿)は、髪の毛よりも細い繊維でできていて、熱や摩擦に強く、変化しにくいという特性があります。このような特性を活かしてアスベスト(石綿)は、断熱材や保温材などの顕在、防音材などの工業製品に広く利用されてきました。
しかし、アスベスト(石綿)が飛散すると空気中に浮遊しやすい特徴がありますので、それを吸い込んでしまうと肺の組織内に長く滞留することになります。アスベスト(石綿)による健康被害は、吸い込んでから長い年月を経て発症しますので、過去にアスベスト(石綿)を扱う仕事に従事していた方は、数十年後にアスベスト(石綿)健康被害を発症することもあります。
【参考】建設現場における労災事故があった場合の補償について解説
アスベスト健康被害のよくある症状
アスベスト(石綿)健康被害で発症するよくある病気・症状には、以下のようなものがあります。
石綿肺
石綿肺とは、アスベスト(石綿)を大量に吸い込むことにより肺が繊維化して固くなってしまう病気です。石綿肺は、吸い込んだアスベストの量が多いほど線維化が生じやすく、症状が進行すると呼吸困難となり、日常生活にも支障が生じてしまいます。
石綿肺の代表的な症状には、以下のようなものがあります。
- 軽い息切れ
- 運動能力の低下
- 咳
- 淡
- 喘鳴
- 呼吸困難
なお、潜伏期間は、15~20年といわれています。
悪性中皮腫
悪性中皮腫とは、肺を取り囲む胸膜、肝臓・胃などの臓器を囲む腹膜、心臓・大血管の起始部を覆う心膜などにできる悪性の腫瘍です。
若い時期にアスベストを吸い込んだ人の方が悪性中皮腫を発症しやすく、潜伏期間は20~50年といわれています
肺がん
肺細胞に取り込まれた石綿繊維の物理的刺激により肺がんを発症すると考えられています。
肺がんは、喫煙も原因の一つとされており、アスベスト(石綿)の吸引と喫煙が重なると肺がんのリスクが高くなるといわれています。
アスベストばく露から発症までの潜伏期間は、15~40年といわれています。
びまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚とは、肺を覆う胸膜が慢性的に線維化することで炎症を起こし、胸膜が肥厚する病気です。びまん性胸膜肥厚の症状としては、息切れ、胸痛、発熱などがあり、潜伏期間は30~40年といわれています。
アスベストばく露が原因の場合、石綿肺を合併していることもあります。
良性石綿胸水
良性石綿胸水とは、アスベストの吸引により胸膜炎を発症し、胸腔内に体液がたまる状態をいいます。良性石綿胸水の症状としては、呼吸困難や胸の痛みなどがあり、徐々に呼吸困難が悪化するとびまん性胸膜肥厚に進展することもあります。
アスベスト健康被害の給付金について
アスベスト健康被害を発症した方は、以下のようなアスベスト健康被害救済給付金を受け取れる可能性があります。
建設アスベスト給付金
建設アスベスト給付金とは、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」に基づいて支給される給付金です。建設アスベスト給付金の支給対象は、以下のすべての要件を満たす人です。
- アスベストにさらされる建設業務に従事していたこと
・昭和47年10月1日から昭和50年9月30日までの期間、アスベストの吹付け作業にかかる建設作業に従事していた
・昭和50年10月1日から平成16年9月30日までの期間、一定の屋内作業場で行われた作業にかかる建設作業 - アスベスト関連の病気(中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺、良性石綿胸水)にかかったこと
- 労働者、一人親方、中小事業主(家事従事者等を含む)であること
これらの要件を満たした人は、病態に応じて550~1300万円の給付金を受け取ることができます。
病態 | 給付金額 | |
石綿肺(じん肺管理区分の管理2) | 合併症がない場合 | 550万円 |
合併症がある場合 | 700万円 | |
石綿肺(じん肺管理区分の管理3) | 合併症がない場合 | 800万円 |
合併症がある場合 | 950万円 | |
石綿肺(じん肺管理区分の管理4) | 1150万円 | |
肺がん | 1150万円 | |
中皮腫 | 1150万円 | |
びまん性胸膜肥厚 | 1150万円 | |
死亡 | 石綿肺(管理2・3で合併症なし) | 1200万円 |
石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚 | 1300万円 |
工場型アスベストによる和解金
工場型アスベストによりアスベスト健康被害を発症した場合、以下の要件を満たせば国から和解金の支払いを受けることができます。
- 昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの期間、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事した。
- その結果、石綿による一定の健康被害を被った
- 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内
これらの要件を満たした人は、病態に応じて550~1300万円の和解金を受け取ることができます。
病態 | 和解金額 | |
石綿肺 (じん肺管理区分の管理2) |
合併症がない場合 | 550万円 |
合併症がある場合 | 700万円 | |
石綿肺 (じん肺管理区分の管理3) |
合併症がない場合 | 800万円 |
合併症がある場合 | 950万円 | |
石綿肺(じん肺管理区分の管理4) | 1150万円 | |
肺がん | 1150万円 | |
中皮腫 | 1150万円 | |
びまん性胸膜肥厚 | 1150万円 | |
死亡 | 石綿肺(管理2・3で合併症なし) | 1200万円 |
石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚 | 1300万円 |
なお、建設アスベスト給付金とは異なり、工場型アスベストによる和解金の支払いを受けるためには、国を相手に裁判を起こさなければなりません。
労災による給付金
仕事が原因でアスベスト(石綿)の健康被害を発症した場合、「労働者災害補償保険制度(労災保険制度)」による給付金を受けることができます。この場合、労働基準監督署長による労災認定を受けることで、以下のような給付が受けられます。
給付金の種類 | 内容 |
療養補償給付 | 療養の給付または医療機関で負担した医療費が支給 |
休業補償給付 | 傷病の療養のため、労働ができず賃金を受けられないときの給付 |
傷病補償年金 | 療養開始後1年6か月経過後も傷病が治らず、障害の程度が障害等級1級~3級に該当するときに支給 |
障害補償給付 | 障害が残ったときに、障害の程度に応じて年金(障害等級1級から7級)または一時金(障害等級8級から14級)を支給 |
介護補償給付 | 傷病年金または障害年金の対象となる障害により、介護を受けている場合に支給 |
遺族補償給付および葬祭料 | 労働者が死亡したときに支給 |
なお、労災保険給付を受ける権利は、一定期間を経過すると時効により消滅してしまいますので注意が必要です。
【参考】派遣社員の労災事故
石綿健康被害救済制度による給付金
アスベスト(石綿)の健康被害は、長い潜伏期間を経て発症しますので、時効により労災保険給付を受ける権利が消滅してしまったり、そもそも健康被害と原因の特定が難しいなどの理由から労災保険給付を受けられない人も少なくありません。また、アスベスト製品の製造工場の近くに住んでいた人は労働者にはあたりませんので、アスベストによる健康被害を発症したとしても労災の補償の対象外です。
石綿健康被害救済制度による給付金とは、このような労災保険の給付が受けられない人の救済を図る制度です。一定の要件を満たす人に対しては、以下のような給付金が支払われます。
給付金の種類 | 内容 |
医療費 | 医療費の自己負担分を支給 |
療養手当 | 治療に必要な医療費以外の費用負担に対して支給される給付 |
葬祭料 | 指定疾病に認定された患者が亡くなった場合に、葬儀に伴う費用負担に対して支給される給付 |
特別遺族弔慰金・特別葬祭料 | 指定疾病により亡くなった方の遺族に対する弔慰などを目的として支給される給付 |
救済給付調整金 | 指定疾病に認定された方が亡くなるまでに支払われた医療費と療養手当の合計が特別遺族弔慰金の額に満たない場合に、遺族に支給される給付 |
会社に対する損害賠償請求
アスベストによる健康被害を発症した人は、上記のような給付金の申請をすることができますが、それとは別に会社に対して損害賠償請求をすることも可能です。
会社は、労働者に対して、生命・身体の安全を確保しながら労働できるよう必要な配慮をする義務を負っています。このような義務を「安全配慮義務」といいます。アスベストが飛散する可能性のある職場で作業する場合、粉塵の飛散防止措置を講じるなどして、労働者の生命・身体の安全を確保しなければなりません。会社がこのような義務を怠り、アスベスト健康被害を招いたといえる場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることができます。
ただし、会社に対する損害賠償請求権にも時効がありますので、会社への損害賠償請求をお考えの方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
アスベストの給付金申請、損害賠償請求に関するご相談は弁護士へ
アスベストにより健康被害を発症した方やそのご遺族の方は、国からのアスベスト給付金や会社からの賠償金の支払いを受けられる可能性があります。ただし、給付金の申請や賠償金の請求にあたっては、一定の要件を満たす必要がありますので、一般の方では正確な判断が困難です。
そのため、過去にアスベストを取り扱う仕事に従事していて、アスベスト健康被害を発症したという方は、要件該当性の判断のため、一度弁護士相談してみるとよいでしょう。