プレス機で起こった労働災害(労災事故)の裁判例と対処方法

プレス機

工場でプレス機を使って作業していると、指を挟まれたり切断したりする労災事故に遭いやすい傾向があります。

群馬県内にも多数の工場があり、プレス作業に携わっている方も多いでしょう。

もしも作業中にプレス機で指を挟まれて切断してしまったら、労災保険の給付を受けましょう。それだけではなく勤務先会社や元請会社などに損害賠償請求できる可能性もあります。

工場勤務の方は万が一のときのために、プレス機で作業中にケガをした場合の対処方法を知っておくべきです。

今回は過去にプレス機を使っていて起こった労災事故で会社への損害賠償請求が認められた裁判例をご紹介するとともに、労災に遭ったときの対処方法を弁護士がお伝えします。

工場作業に従事している方はぜひ参考にしてみてください。

1.プレス機での労働災害とは

プレスマシーンと工場員

プレス機を使った加工の過程では労働災害が起こりやすいといえます。

プレス機とは、金属の板材を挟んで強い力をかけることにより、製品の形に整えるための機械です。

対象となる金属を挟む部品を「金型」といいます。プレス機は、自動車やパソコン、医療機器やロボットの製作など多数の製品製造に使われており、現代社会ではその需要がどんどん高まっているといえるでしょう。

作業が自動化しているとはいえ人の手が関わることも多々あります。プレス機を扱う人には労災事故の危険がついてまわります。典型的なのは、プレス機の金型に作業者の指が挟まれて切断される事故です。

プレス機における労災事故では後遺障害が残るケースも多く、重大事故につながりやすい傾向があるので軽く考えてはなりません。プレス機の労働災害に遭ったら、労災保険へ各種の給付を申請しましょう。

労災保険以外に会社へ損害賠償請求できる可能性もあります。損害賠償請求できる相手先は、勤務先や元請け会社が主となります。

以下で勤務先会社の責任が認められた裁判例があるので、みてみましょう。

2.プレス機の労災事故で会社に対する損害賠償請求が認められた裁判例のご紹介

六法全書

今回ご紹介する裁判例は、東京地裁平成27年4月27日の判決です。

以下で事故概要と裁判所の判断内容をお伝えします。

事故概要

本件は、東京都に本社があって茨城県内に関東工場を有している被告会社が、元従業員工場長(原告)から訴えられた事案です。

工場長は、工場内での作業中にプレス機械によって左手を挟まれて複数の指を切断するなどの大けがをしました。後遺障害も残った重大事故のケースです。

工場長は会社に「安全配慮義務違反」があったと主張して会社に対し、損害賠償請求をしました。

裁判所は会社の安全配慮義務違反を認め、会社に対して1651万円の賠償金支払い命令をくだしました。なお工場長側にも過失があるとして、4割の過失相殺が適用されています。

裁判所の判断内容

裁判所の判断内容をみていきましょう。

被災者の職務と本件プレス機について

本件の原告は昭和38年生まれの男性で、平成24年3月22日に被告会社を退職するまで約30年間にわたって被告会社にて雇用されてきました。平成23年7月22日までは被告工場の工場長の職に就いていた人です。

事故が起こった工場内のプレス機械では、自動車に金属製のエンブレムをつける両面テープに「セパレーター」という紙を貼って型抜きをする作業が実施されていました。

このプレス機は、もともと被告とは別の会社が印刷機の中古機械を改造してつくったものであり、被告会社には昭和63年12月に納入されました。

プレス機に対する被告会社の対応

被告は原告などの従業員からプレス機の取扱方法について調査を実施したうえで平成22年12月、作業工程の「標準作業手順書」を作成しました。

ただしこの標準作業手順書には、プレス機の「試し抜き作業」についての記載がありませんでした。またプレス機についての取扱説明書も存在していませんでした。

本件事故前に生じた労災事故

平成23年3月17日、被告会社のパート従業員が本件プレス機に似た機械でプレス作業をした際に指を挟まれて左中指や薬指、小指の先端を骨折する労災事故が発生しました。

このとき、被告会社の代表者はプレス機に安全装置がない事実を認識したといえます。

本件事故の発生と被告会社の責任

その後原告が平成23年7月22日にプレス機に左手を挟まれて、左示指及び左小指、左中指、左環指を切断する労災事故に遭いました。

裁判所は、以下のような事情を重く受け止めて被告の責任を認めました。

  1. 平成23年3月17日の事故をきっかけに「プレス機に安全装置がない」と認識しながら特段の措置をとらなかった
  2. 事故当時、プレス機には安全カバー安全カバーや自動停止装置が取り付けられていなかった

会社としては労災事故を防ぐために安全装置を取り付けるべき義務があったといえますが、何の対処もしていなかったので責任が認められた、ということです。

法的には労働安全衛生法により、各企業にはプレス機械について以下のような措置を講じなければならないとされています(労働安全衛生法規則131条)。

  1. 作業員の身体が危険限界に入らないための措置
  2. 安全装置を取り付けるなどの必要な措置

会社の対応は違法ともいえ、責任が認められても当然といえるでしょう。

なお被告会社は本件事故後に安全カバーと自動停止装置を取り付けました。

裁判所に認定された慰謝料額

本件では、以下のような損害が発生したと認定されました。

費目 金額 内容
入通院慰謝料 179万円 被災者がケガをして入通院治療を受けたことによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料
休業損害 242万円 被災者がケガをして入通院治療を行い、仕事ができなくなった期間における休業損害
後遺障害慰謝料 830万円 被災者に後遺症が残ったことによって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料
後遺障害逸失利益 2700万円 被災者に後遺症が残ったことによって労働能力が低下し、将来得られなくなった収入に対する補償
合計 約3951万円  

被災者における過失と過失相殺

本件では「工場長側にも過失があった」と認定されました。

工場長側の過失内容は以下のようなものです。

  • 工場長は作業時にプレス機を止めてから対応すべきであったのに、止めずに作業を進めた
  • 工場長は積極的に安全カバーや自動停止装置を取り付けるよう会社に要請していなかった
  • 工場長は当時疲れていたが、注意力が低下して作業に支障が生ずる状態であれば,プレス操作をすべきでなかった。それにもかかわらずあえて作業を行ったことが事故につながった

こういった事情が評価されて4割の過失相殺が行われ、最終的には1651万円の支払い命令が出ました。

3.プレス機で労災事故に遭った場合の対処方法~会社・元請けに対して過失を追求するために~

弁護士

プレス機で指を挟まれるなどして労災事故に遭ったら、労災保険給付を求めることができます。

それとは別に、本件のように勤務先会社に損害賠償請求できる可能性がありますし、元請け会社に責任があれば元請け会社にも損害賠償請求できるケースがあります。

以下でそれぞれの対処方法についてみていきましょう。

労災保険とは

労災保険とは、労働災害が起こったときに被災者へ給付を行うための保険です。

プレス機による指の離断や骨折などは典型的な労災事故なので、労災保険が適用されます。

すべての雇用者は被用者について労災保険に加入する義務を負うので、労災に遭った労働者は誰でも労災保険を申請できると考えましょう。

■ 労災保険の申請について詳しく

労災保険の主な給付内容

労災保険が適用されると、以下のような給付が行われます。

費目 内容
療養補償給付 病院でかかる治療費の支給を受けられます。金額は完治または症状固定までの治療費全額です。
休業補償給付 事故で仕事を休んだ分の補償金です。休業4日めから、給付基礎日額(平均給与額)の8割の金額が支払われます。
障害補償給付 労基署にて「後遺障害等級認定」を受けられたときに支給される後遺障害に対する補償です。
後遺障害の等級には1級から14級までがあり、1級から7級であれば年金方式、8級から14級であれば一時金方式で支給が行われます。
等級が高くなればなるほど給付額が上がります(1級がもっとも高く14級がもっとも低い)。

上記以外に介護補償給付や障害補償給付、遺族補償給付などもあります。

本件における労災給付内容

本件の事故では、以下のような労災給付が行われました。

  • 療養補償給付として治療費全額
  • 休業補償給付として145万円
  • 障害補償一時金 724万円(認定等級は8級。2本の手指の用を廃したものと認定)

4.労災保険と損害賠償請求の違いや関係

弁護士

上記で見てきた通り、労災保険から給付を受けたうえで、会社に過失があれば損害賠償請求し追加の慰謝料を受け取ることが可能です。

労災保険と損害賠償請求の違いについて解説します。

労災保険と損害賠償請求の違い

労災保険給付と会社に対する損害賠償請求は異なります。

労災保険はあくまで労働者を救済するための公的な制度であり、会社の民事責任を問うものではありません。

会社に安全配慮義務違反があれば、労災保険とは別途会社へ損害賠償請求することができます。

労災保険と損害賠償責任の関係

労災保険と会社の損害賠償責任について、重なり合う部分については重複する請求ができません。ただし重ならない部分も多くあります。

たとえば会社に対しては1日めから全額の休業損害を請求できます。

また労災保険からは慰謝料が支給されないので、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料については会社へ請求しなければなりません。

逸失利益についても障害補償給付で不足する部分については会社へ請求する必要があります。

■ 労災事故で損害賠償請求する際のポイント

5.労災に遭ってしまったら損害賠償請求の検討を

武多和弁護士

プレス機に指を挟まれる以外にも、全国では日々多数の労災事故が発生しています。

多くのケースにおいて、労災保険給付以外に企業側の損害賠償責任が認められているのが現状といえるでしょう。事故に遭ったら単に労災保険給付を受け取るだけではなく、企業側に責任がないか検討すべきです。勤務先の会社だけではなく、元請け会社に責任追及できる可能性もあります。

労災事故に詳しい弁護士にご相談を

ただ労災事故へ対応するには、素人判断では難しくなるケースが多数です。

労災事故に強い弁護士であれば、企業側へ責任が発生するのか判断しやすく、損害賠償請求の交渉や訴訟なども任せられます。

群馬県高崎市の山本総合法律事務所では、人身傷害事件を多数取り扱ってきた経験により、労災対応に力を入れて取り組んでいます。群馬県で労災事故に遭われた方は泣き寝入りせずにご相談ください。

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