建設現場における労災事故があった場合の補償について解説

労災(労働災害)とは

労災とは

労災には大きく分けて業務災害と通勤災害の2種類があります。

業務災害は労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡を意味し、通勤災害は労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡を意味します。

労災が発生した場合は、会社による補償または労働者災害保険からの保険給付が為されます。

業務災害と通勤災害のうち、業務災害の種類や類型は業種ごとに異なり、数ある業種の中でも特徴的なのが建設現場における労災です。

今回は、建設現場における労災事故の特徴や補償について解説します。

建設業におけるよくある労災事故のパターン

建設業におけるよくある労災事故のパターン

厚生労働省が公表する令和5年度の労働災害発生状況によれば、建設業における事故の類型は死亡災害・死傷災害ともに「墜落・転落」が最多で、労災全数に占める割合は死亡者数で38.6%、死傷者数で31.6%となっています。

これに次いで、死亡災害では「交通事故(道路)」、死傷災害では「はさまれ・巻き込まれ」の発生件数が多いです。 

建設現場の作業は高所や不安定な場所での作業を伴うため、「墜落・転落」が他の業種に比べ発生しやすいといえます。

また、様々な機械や車両を使用する建設現場ならではの特性から「交通事故(道路)」や「はさまれ・巻き込まれ」といった類型の労災事故が多く発生していると考えられます。

建設業における労災の特徴

建設現場には、元請業者や下請業者(一次下請け、孫請け、曾孫請け等)など多数の業者が作業に参加しているケースが多いです。

そのため、労災事故が発生した際に、どの会社が責任を負うのかが一見して分かりにくいことが多いです。

詳しくは後述しますが、自分が所属していない元請等に対して責任を追及できる可能性もあります。

【参考】挟まれ事故・巻き込まれ事故

建設業で労災に被災した場合の補償

建設業で労災に被災した場合の補償

 労災に被災した場合には、下記の補償を受けられます。

  • 療養補償給付:治療費や入院費などの治療にかかる実費の補償。
  • 休業補償給付:労災による怪我や病気が原因で仕事を休んだ場合の補償。給付基礎日額の80%が給付される。
  • 障害補償給付:労災により後遺障害が残った場合に認定された障害等級に応じて給付される。後遺障害等級の認定を受けるための手続きが必要。
  • 遺族補償給付:被災した労働者が亡くなった場合に遺族に給付される。
  • 葬祭料・葬祭給付:被災した労働者が亡くなった場合に葬儀費用を補てんする給付。
  • 傷病補償等給付:第3級以上に該当する重篤な負傷や疾病1年6か月以上治らない被災者に対してされる給付。
  • 介護補償給付:障害等級・傷病等級が第1級である・第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している場合で現に介護を受けている場合に支給される給付。

これらとは別に、会社に対する損害賠償として慰謝料を請求するケースもあります。

しかし、慰謝料は労災保険から給付されません。

慰謝料も受け取りたい場合は、会社に対して慰謝料の支払を求めていくことになります。
とはいえ、労災保険でカバーされたものについて会社へ請求しても、給付の二重取りとなってしまうため認められません。

誰に何を請求するかは、事案ごとにケースバイケースで検討する必要があります。

【参考】プレス機で起こった労働災害(労災事故)の裁判例と対処方法

建設業における労災事故で問題になりやすいこと

建設業における労災事故で問題になりやすいこと

労災隠し

建設現場では元請や下請など多数の業者が作業しているため、場合によっては下請会社の従業員の労災事故を元請会社の労災保険で対応するケースもあります。

このとき、元請会社側が他社である下請会社の従業員の労災対応を拒否したり、下請会社自身が元請会社に忖度する等して労災隠しが図られることがあります。

また、事実とは異なる態様で労災が発生したこととするため虚偽が述べられることもあります。
特に、コンプライアンスの意識が低い会社では労災隠しが行われやすい傾向にあります。

労働災害を隠す・虚偽の報告をするといった「労災隠し」には労働安全衛生法により50万円以下の罰金刑が定められていますので、犯罪です。

また、被災した従業員側からみても、労災隠しは自身に不利益しかありませんから、注意が必要です。

充分な補償が受けられないおそれがある

上記のとおり、労災が発生した場合には各種補償が受けられます。

しかし、建設現場での労災は重大な怪我に繋がりやすく、必ずしも充分な補償が受けられるとは限りません。

労災保険で不足する分は会社へ請求できますが、会社が任意に支払わない場合は訴訟等の法的措置も検討しなければなりません。

【参考】労働災害に関する弁護士費用
【参考】労働災害を弁護士に相談すべき3つの理由

元請会社に対して責任を追及できるか?

下請会社の従業員が建設現場で労災に被災した場合、雇用されている下請会社に対し責任を追及することは当然に可能です。

会社は雇用する従業員の身心の健康・安全を守る義務(=安全配慮義務)を負っているところ、労災は安全配慮義務に違反しているからです。

原則は、安全配慮義務は他社の従業員に対しては発生しないので、下請会社の従業員が元請会社に対して責任を追及することは難しいです。

しかし、建設現場では下請会社だけでなく元請会社も工事に関与しているため、元請会社と下請会社の従業員との間に「指揮監督関係があった」「元請会社の備品を使用していた」などの事情がある場合は、元請会社が下請会社の従業員に対し安全配慮義務を負う可能性もあります。

したがって、直接雇用関係の無い元請会社に対しても責任を追及できる可能性があります。

【参考】Q.自分にも原因(過失)があります。それでも、労災保険の給付請求や会社に対して損害賠償などを請求出来ますか?
【参考】Q.会社から、労災を申請しないよう言われている

建設業で労災事故に遭った場合は弁護士に相談を

労災に遭った際は、労災保険の給付のための手続きを行ったり、会社に対して損害賠償を請求したりする必要がありますが、適切に進めるためには高度な専門的知識や多大な労力が求められます。

特に、会社に対して損害賠償を求める際は、元請と下請のどちらに責任があるのか・責任の原因は何か・損害額はいくらかといったことを法的に整理し根拠を示さなければなりません。

弁護士に相談すれば、労災事故に対する充分な補償を受けるために効果的なサポートを受けられるでしょう。

当事務所には労災事故につき、たしかな経験とノウハウを持つ弁護士が在籍していますので、まずはお気軽にご相談ください。

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