転倒事故による労災の慰謝料

労災における転倒事故とは

転倒事故

労働災害(労災)とは、労働者の業務上又は通勤による負傷・疾病・障害・死亡です。

会社側には、労働災害が発生した場合には労働基準法に基づき補償義務(療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料支払義務)が発生します。

実務的には、労働者災害補償保険法による保険制度が用いられ、会社側が直接補償義務を履行するケースは少ないです。

もっとも、労災保険は慰謝料まではカバーしていないので、労災保険とは別途に会社に対し慰謝料を請求できるケースもあります。

労災の類型には腰痛等の「動作の反動・無理な動作」、機械等による「はさまれ、巻き込まれ」、主に林業や建設業で見られる「飛来・落下」など、複数のパターンがあります。

その中でも「転倒」は、作業現場や倉庫等に限らず事務所内でもしますから、どの業種でも発生するリスクがある類型です。

【参考】転落事故

労災発生数の中に占める「転倒」の割合

厚生労働省が集計した令和4年労働災害発生状況によれば、令和4年に発生した休業4日以上の労災の死傷者数は全体で132,355人です。

うち、「転倒」による死傷者数は35,295人と全体の26.7%を占め最も発生数が多いです。

「転倒」に次いで多いのが「動作の反動・無理な動作」の20,879人(全体の15.8%)ですから、「転倒」の発生件数の多さが際立ちます。

また、前年比でも「転倒」による死傷者数は4.8%増加しています。

なお、厚生労働省策定の令和4年高年齢労働者の労働災害発生状況によれば、高年齢になるほど転倒による労働災害発生率が上昇し、特に高齢女性の転倒労働災害発生率が高いとの統計が出されています。

【参考】【労働災害】爆発・火災・巻き込まれ・転落などの事故によりケガを負ったら?

労災における転倒

転倒事故2

続いて、労災においてどのような事態が「転倒」に該当するのか、事例を踏まえつつご紹介します。

滑って転倒

業務中に足を滑らせて転倒するケースです。例えば、以下のような事例があります。

  • 介護施設の浴室内で、清掃中に滑って転倒した
  • 飲食店内を移動中、グレーチングの上で滑って転倒した
  • 急いでいたのでバックヤードを走って移動していたら、濡れた床で滑って転倒した
  • 両手に荷物を持って雪道を歩行中、滑って転倒した
  • 新聞配達中、凍結した路面で滑って転倒した

ビニール、紙、台車等滑りやすい異物が床に落ちている

床に落ちていて物の上に足を載せてしまい転倒するケースです。整理整頓ができていない職場で起こりがちです。

  • 店内からバックヤードに入る扉を開けたとき、キャスター付台車の上に足が乗り、滑って転倒した

躓きによる転倒

段差やコード等に躓いて転倒するケースです。作業現場に限らず事務所内でも発生するリスクがあります。

  • トイレ清掃中、薄暗い中手探りで照明のスイッチを探していたときに段差に躓いて転倒
  • 席から立ちあがったときに出しっぱなしの引き出しに躓いて転倒
  • ガソリンスタンドの給油中、給油ホースに躓いて転倒
  • 工場内で移動中、電源コードや溶接コードに躓いて転倒
  • 材料倉庫内で床に落ちていた資材に躓いて転倒

踏みはずし

段差を踏み外して転倒するケースです。

  • 階段の踏み段がアンバランスになっており踏み外して転倒
  • 田んぼのあぜ道を登ろうとして転倒
  • キャディー業務中、ディポットに足をとられ転倒

 バランスを崩して転倒

揺れや重い荷物を運搬中にバランスを崩して転倒するケースです。

  • 同僚と2名で鉄板を運搬中、足がもつれ転倒
  • 漁船で網を引上げ中、波により船が揺れて転倒
  • 重い箱を持ち上げたときに、バランスを崩し転倒
  • 倉庫内で急ぎの部品調達のため小走りで移動中、交差十字路の手前で横方向の同僚を認識し、急に止まろうとしてよろめいて転倒
  • 工場内の斜路で段ボールを運搬中によろめいて転倒

転倒による労災で慰謝料請求はできるのか

電話をかけている男性

労災における慰謝料とは

前提として、慰謝料とは、他者からの加害行為によって精神的に被った被害を賠償するために支払われる賠償を意味します。

雇用主である会社は、雇用契約に基づき労働者の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っているので、安全配慮義務に違反したことを根拠に慰謝料をはじめとする損害賠償義務が発生します。

また、民法715条に基づく使用者責任を根拠に慰謝料支払義務が発生するケースもあります。

しかし、体の怪我や物の故障などと比べ、精神的な損害は客観的に数値化できないため算定するのが難しいです。

そこで、労災における慰謝料は大きく3パターンに区分されます。

死亡慰謝料

労働災害により労働者が死亡してしまった場合、死亡した労働者本人及び遺族に対し発生する慰謝料です。

死亡という最も重い結果が発生していますので、他の類型に比べ慰謝料額は高額になりやすいです。

例えば、死亡してしまった労働者が一家の大黒柱である場合の死亡慰謝料の相場は約2,800万円です。

後遺障害慰謝料

労働災害により怪我や病気を負い、完治せずに後遺障害を負ってしまった場合に発生する慰謝料です。

後遺障害は症状ごとに第1級~第14級まで等級が設定されているので、該当する等級の慰謝料額をベースに具体的な金額が算定されます。

例えば、最も重い第1級だと2,800万円、最も軽い第14級だと110万円です。

なお、後遺障害と認定されるまでに病院へ入院・通院しているでしょうから、後遺障害慰謝料に加えて下記の入院通院慰謝料も請求できます。

入院通院慰謝料

労働災害によって負った怪我や病気を治療するために病院へ入院・通院を要したことに対する慰謝料です。

怪我・病気の程度や入院・通院の期間や頻度といった事情を基に慰謝料額が算定されます。

【参考】労働災害の慰謝料請求

労災保険給付と慰謝料の関係

労災の保険金は保険会社が支払うものです。

他方、慰謝料をはじめとする損害賠償は雇用主である会社が支払うものです。

それぞれ支払義務を負う者が異なりますので、労災保険と損害賠償は両方とも請求できます。

しかし、労災保険も損害賠償も労働者が被った被害を補償するという点で性質が同じですから、どちらかから支払われたら他方は請求できません。

つまり、二重取りはできない、ということです。

とはいえ、基本的に労災保険は労災により発生した物的損害(逸失利益や治療費など)を補償するものであり、精神的損害を補償するものではありません。

そのため、労災保険とは別途で会社に対し慰謝料を請求できる可能性があります。

実務的には、まずは労災の申請を行い、労災保険でカバーできない損害を会社に対して請求するケースが多いです。

また、そもそも会社側が労災申請に協力してくれない場合は、労災申請の手続きと同時並行で会社に対する損害賠償請求も行うケースもあります。

当事務所がサポートできること

労働災害が発生すると、労災保険の申請手続きや会社に対する損害賠償請求等をすることになりますが、これらには労力がかかりますし、何より、適切な補償を受けるためには専門知識が必要不可欠です。

当事務所には数多くの労災問題解決の実績があり、たしかな経験とノウハウを持つ専門の弁護士が労災のご相談をお受けします。まずはお気軽にお問合せください。

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