- 執筆者弁護士 山本哲也
公務員が業務中に事故に巻き込まれたり病気になったりした場合、労災保険は適用されません。
ただし公務員に適用される「公務災害」の制度があります。
公務災害に遭った場合、基本的には被災職員の方から災害の認定申請を行わねばなりません。
この記事では公務災害と一般の労災保険の違い、公務災害の認定申請の方法、国や自治体への損害賠償請求ついて解説します。
1.公務災害とは
公務災害とは、公務員が仕事中にけがをしたり仕事に起因して病気になったりすることです。公務災害が発生すると、公務員は「公務員災害補償制度」によって補償を受けられます。
一般の民間企業の労働者が業務災害に遭ったら、労災保険から補償を受けますが、公務員は労災保険へ加入しておらず労災保険の適用はありません。そうではなく法律によって作られた別の制度である「公務員災害補償制度」によって各種の給付金を受け取れるのです。
国家公務員にも地方公務員にも公務災害の制度があります。
国家公務員の場合は「国家公務員災害補償法」、地方公務員の場合は基本的に「地方公務員災害補償法」により、各種の補償金が給付されますが、内容はほぼ同様となっています。
1-1.通勤災害について
公務員が通勤退勤中に事故に巻き込まれた場合にも「通勤災害」として補償を受けられます。この点でも一般の会社員に適用される労災保険と同様です。
ただし通勤退勤の合理的なルートから大幅に外れると、通勤災害として認定されなくなる可能性はあります。
公務員の場合、ルートからの逸脱や中断が日用品の購入や教育機関への通学、通院など日常生活で必要な行為であり総務省令で定めるものに該当する行為を行うための最小限度のものである場合、合理的な経路に戻ってからの災害は通勤災害として認定されます。
1-2.公務災害の補償内容
公務災害に遭った場合の補償内容で主なものを説明します。
費目 | 内容 |
療養補償 | 医療費の補償です。公務災害で病院にかかる場合、治療費は基本的に全額公費負担してもらえます。 |
休業補償 | 公務災害によって働けない期間が生じると、従来の平均賃金の60%の金額を休業補償として支給してもらえます。 |
障害補償 | 公務災害によって後遺障害が残ってしまった場合、14段階の等級に応じて一時金や年金が支給されます。 |
傷病補償年金 | 公務災害後1年6か月が経過しても完治せず一定以上の重症状態が続いている場合、傷病補償年金という年金が支給されます。 |
介護補償 | 介護に要する費用についても補償があります。 |
遺族補償 | 公務災害で本人が死亡してしまった場合、遺族へも補償が行われます。 |
葬祭補償 | 公務災害に遭った本人が死亡した場合に遺族に支給される葬祭費用です。 |
上記のほか、障害補償年金の受給権者が死亡した場合に交付される一時金などの制度もあります。
【関連リンク】労働災害と後遺障害等級認定
2.公務員災害補償制度を受けられる人
公務員であれば、ほとんど誰でも公務員災害補償制度も対象になります。
ただし地方公務員の非常勤職員の場合、一般の労災保険が適用されるケースもあります。
同じ公務員であっても国家公務員か地方公務員かで公務災害の申請先が異なります。
公務災害の適用関係は複雑な面があるため、自分ではどの制度が適用されるかわからない方は、弁護士へ相談してみるとよいでしょう。
3.公務災害の認定基準
公務災害として認定されるには、「公務遂行性」と「公務起因性」の2要件を満たさねばなりません。
3-1.公務遂行性
公務遂行性とは「公務員が公務に従事している状態」といいます。
すなわち公務員が所属長や任命権者の支配下で仕事をしている状態です。
プライベートな状況で事故に遭っても公務遂行性の要件を満たさず公務災害制度は適用されません。
3-2.公務起因性
公務起因性とは、公務と災害との間に因果関係があることです。
つまり「その仕事をしていたために災害に遭った」と認められる関係が必要となります。
公務災害として認定されるには上記の2つの要件を両方満たす必要があり、どちらか一方でも欠けると補償が適用されません。
たとえば公務に起因してうつ病になった場合、因果関係(公務起因性)が否定されるケースもよくあります。
認定基準を満たすか問題になりそうな事案では、認定申請の手続きを弁護士に任せるのが無難でしょう。
3-3.公務災害認定の具体例
公務災害の認定基準について、公務上の負傷と公務上の疾病(病気)の2つを具体例としてみていきましょう。
■ 公務上の負傷
公務上の負傷とは、公務員が仕事に起因して怪我をすることです。
公務上の負傷の場合、以下のような状況であれば基本的に公務災害として認定されます。
- 公務員としての職務を原因とする負傷
- 出張や赴任期間中の負傷
- 特別の事情下における出退勤中の負傷
- 公務員としてのレクリエーションに参加中の負傷
- 勤務場所や附属施設の設備の不完全、管理上の不注意による負傷
- 入居すべき宿舎などの不完全、管理上の不注意による負傷
- 公務員の仕事をしていて怨まれたことによる負傷
- 公務上の負傷や病気に起因する負傷
■ 公務上の疾病
公務上の疾病とは、公務員としての仕事に起因する病気をいいます。
以下のような場合、公務上の疾病として認められ、補償が適用される可能性があります。
- 公務上の負傷にもとづく疾病
- 業務内容による職業病
- 上記以外でも公務に起因することが明らかな疾病(長時間労働によるうつ病など)
4.公務災害の申請方法
公務災害による補償を受けるには、公務災害の認定申請をしなければなりません。
以下で認定方法や流れをお伝えします。
4-1.申請先
■ 国家公務員の場合
国家公務員の場合、まずは補償事務主任者へ報告をします。すると補償事務主任者が被災者の所属に応じて、公務災害制度の実施機関へ報告します。
実施機関とは財務省や外務省、警察庁や国税庁などの省庁、国立公文書館や国立印刷局などの所属先です。
報告を受けた実施機関が認定を行い、公務災害として認められれば補償が行われます。
■ 地方公務員の場合
地方公務員の場合、任命権者を経由して地方公務員災害補償基金の支部長宛に認定請求をします。
任命権者とは、公務員を任命する権限を持つ人で、地方公共団体の長や道府県警察本部長、消防長などが該当します。
基金が公務災害に該当するかどうかを判断し、認められれば補償が行われます。
以下でステップごとに認定請求の方法をみてみましょう。
STEP1 所属長や事務担当者へ報告
公務災害に遭ったら、まずは所属長や事務担当者へ報告しましょう。
スムーズに手続きを進めるためにも、できるだけ早めに報告すべきです。
治療も早めに開始するようおすすめします。
その際、病院の窓口ではすぐに支払いをせず、公務災害を申請する予定であることを告げて医療費の支払いを待ってもらえないか相談してみるとよいでしょう。
STEP2 公務災害認定請求書の作成、提出
次に公務災害認定請求書を作成し、所属長へ提出します。
なお公務災害発生日から1か月が経過すると「遅延理由書」を提出しなければなりません。遅れると認定そのものも受けにくくなる可能性もあるので、早めの対処が肝心です。
STEP3 審査・認定
地方公務員の場合には災害補償基金の支部、国家公務員の場合には各実施機関にて審査が行われ、けがや病気が公務災害に該当するかどうか審査されます。
STEP4 認定通知
公務災害として認定されると、認定通知書が送られてきます。
認定されなかった場合、不服申立も可能です。通知書を受け取った日の翌日から3か月以内に審査請求をしましょう。
5.公務災害認定申請の時効や期限について
公務災害の申請には時効があります。
定められた期間内に申請しないと、請求する権利自体が消滅してしまい、補償を受けられなくなってしまいます。
国家公務員の場合と地方公務員の場合について、みてみましょう。
5-1.国家公務員の場合
補償の内容 | 時効 |
療養補償・休業補償・介護補償・葬祭補償 | 2年間 |
傷病補償年金・障害補償・遺族補償 | 5年間 |
ただし国家公務員の災害補償制度の場合「職権探知主義」がとられています。
つまり実施機関が補償を受ける権利がある旨の通知をしなければ補償請求できないので、それまでの期間は時効が進行しません。
5-2.地方公務員の場合
補償の内容 | 時効 |
療養補償・休業補償・介護補償・葬祭補償 | 2年間 |
傷病補償年金・障害補償・遺族補償 | 5年間 |
6.国や自治体、第三者への賠償請求について
公務災害に遭った場合、公務災害の補償制度とは別に国や自治体、第三者(加害者)へ賠償金を請求できる可能性があります。
6-1.国や自治体への請求
国家公務員の場合には国、地方公務員の場合には自治体が、公務員の仕事上の安全管理をしなければなりません。それにもかかわらず安全配慮が不十分であれば、国や自治体に責任が発生します。
この場合、被災職員は「国家賠償請求」により支払いを受けられる可能性があります。
国家賠償が認められると、公務災害の休業補償や障害補償などの給付金では不足する部分や慰謝料などの支払いもうけられます。国や自治体に落ち度があるなら適切に請求手続きをとりましょう。
6-2.加害者に対する損害賠償請求
たとえば交通事故の相手方や暴行の加害者など、公務災害に加害者がいればその人(第三者)へも賠償請求が可能です。
6-3.公務災害補償と損害賠償金の2重取りはできない
なお国や自治体、加害者からの損害賠償金と公務災害による補償の両方を重複して受け取ることはできません。両方受け取ると2重取りとなってしまい、被災者が得をしてしまうためです。
基本的には重複する部分についてはどちらか一方しか受け取れないので、勘違いしないようにしましょう。
7.公務災害は弁護士へご相談ください
公務員が公務災害に遭ったら、一般の労災保険の適用は基本的にありません。公務員災害補償法による補償を申請しましょう。
公務災害の補償の申請先は、国家公務員か地方公務員かによっても異なります。
ご自身で対応すると因果関係を否定されるなどして認定されないリスクも高まってしまいます。スムーズかつ確実に認定されるには、弁護士によるサポートが必要といえるでしょう。
群馬の山本総合法律事務所では各種の公務災害認定請求に力を入れており、これまで多数の被災者支援に取り組んでまいりました。業務中の事故や通勤災害に遭われた公務員の方は、できるだけ早期にご相談ください。