派遣社員の労災事故

派遣社員は、派遣元会社との間で労働契約を締結していますが、実際に働くのは派遣先会社になるなど一般的な労働者に比べて、複雑な契約関係となっています。そのため、派遣社員が労災にあった場合、派遣元と派遣先のどちらが責任を負うのかが不明確なケースも少なくありません。

労災により生じた損害は、労災保険から一定の補償を受けられますが、それだけでは十分なものとはいえません。派遣社員としては、派遣元・派遣先のどちらが責任を負うのかをしっかりと理解して、損害の補填に向けて行動することが大切です。

今回は、派遣社員が労災事故にあった場合の責任の所在について、わかりやすく解説します。

派遣社員が労災にあったら責任はどこが問われる?

派遣社員 労災

派遣社員が労災にあった場合、どこが労災の責任を負うことになるのでしょうか。

派遣元会社が責任を負うケース

派遣社員と派遣元会社との間では、労働契約が締結されています。そのため、派遣元会社は、派遣社員に対して、労働契約上の義務として、安全配慮義務を負っています。

派遣元会社がこのような安全配慮義務に違反して、労災が発生したといえる場合には、派遣社員は、派遣元会社に対して、損害賠償請求を行うことができます。派遣元会社に安全配慮義務違反がある場合とは、派遣元会社において、派遣社員が派遣先で過重な業務を強いられていることを認識しながら、派遣先会社に是正を求めなかったような場合が挙げられます。

派遣先会社が責任を負うケース

派遣社員と派遣先会社との間には労働契約関係はありません。

しかし、派遣社員は、派遣先会社の指揮命令を受けて働いていますので、直接的な契約関係はないとしても派遣元会社と同様に安全配慮義務を負っているものと考えられています。そのため、派遣先会社での過重労働が原因で労災が発生したような場合には、派遣先会社に対して安全配慮義務違反による損害賠償請求をすることができます。

【参考】建設現場における労災事故があった場合の補償について解説

適切な治療を受ける重要性

重要性

労災により傷病を負った場合には、まずは治療を受けることが大切です。

労災による治療は労災指定医療機関を受診する

労災により傷病を負った場合には、まずは病院での治療を行います。その際は、労災指定医療機関を受診するようにしましょう。

労災指定医療機関であれば、窓口での治療費の支払いが必要ありませんので、被災労働者は、費用負担なく病院に通うことが可能です。他方、労災指定医療機関以外の病院だと、窓口での医療費の支払いが必要となり、健康保険の利用ができないため、10割負担で治療費を支払わなければなりません。被災労働者が支払った治療には、後日、労働基準監督署に申請することで還付を受けられますが、一旦は被災労働者が支払わなければなりませんので、大きな負担になります。

【参考】労働災害の休業補償

医師の指示に従って定期的に通院する

労災で病院に通院する場合には、医師の指示に従って定期的に通院するようにしましょう。

仕事が忙しいからという理由で、治療途中であるにもかかわらず、勝手に治療を中断してしまったり、通院間隔をあけてしまうと、症状が悪化するリスクがあります。また、適正な障害認定を受けられないおそれもありますので注意が必要です。

治療の終了時期は完治または症状固定と診断された時点

治療の終了時期は、医師から完治または症状固定と診断された時点になります。

症状固定とは、これ以上治療を継続しても、症状の改善が期待できない状態をいいます。症状固定時に何らかの症状が残っている場合には、労働基準監督署に障害(補償)給付の申請をすることができます。

【参考】労働災害と後遺障害等級認定
【参考】適切な後遺障害等級を認定してもらうために

労災認定を受ける重要性

労災により傷病を負った場合には、労働基準監督署の労災認定を受けることができれば、労災保険からさまざまな労災保険給付が受けられます。

労災保険による補償の種類

労災保険から受けられる労災保険給付には、以下のような種類があります。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)年金
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 葬祭料(葬祭給付)
  • 介護(補償)給付

労災保険からの補償には、怪我の治療費、休業中の所得補償、障害が残った場合の補償などさまざまなものがありますので、状況に応じて適切な補償を受けるようにしましょう。

派遣社員が労災認定を受ける基本的な流れ

派遣社員が労災により傷病を負った場合には、以下のような流れで労災認定の手続きを行います。

派遣元・派遣先会社への連絡

派遣先会社で労災事故が発生した場合には、周囲の安全を確保して、再発防止策を講じる必要がありますので

また、派遣社員が労災事故によって傷病を負った場合には、派遣元会社が労災保険の適用事務所になりますので、派遣元会社の労災保険を適用することになります。そのため、労災認定の手続きを進めるためには派遣元会社への連絡が必要です。

労災の申請書を作成

労災の申請書は、労働基準監督署の窓口や厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることで入手することができます。具体的な申請内容に応じた申請書を選択し、必要事項の記載を行います。

労災の申請書は、原則として被災労働者が作成する必要がありますが、会社にも助力義務がありますので、書類の作成を会社に任せることもできます。派遣社員の場合には、派遣先会社に労災の発生状況の証明をしてもらい、次に派遣元会社に事業主証明をもらうことになります。

【参考】労災保険の申請

労働基準監督署に必要書類を提出

労災の申請書の作成ができたら、必要書類とともに労働基準監督署に提出します。

労働基準監督署では、提出された書類などを審査し、労働認定を行います。労災認定が受けられれば、労災保険給付が行われます。

派遣社員の労災は派遣先・派遣元に対する損害賠償請求を検討

労災認定を受ける重要性

派遣社員が労災にあった場合には、派遣先・派遣元に対する損害賠償請求を検討する必要があります。

労災保険による補償だけでは不十分

労災保険からはさまざまな補償が支払われますので、被災労働者の中には、労災保険だけでも十分だと思う方もいるかもしれません。

しかし、労災保険からは、被災労働者が被った身体的・精神的苦痛に対する慰謝料の支払いはなく、障害が残った場合の補償も十分なものとはいえません。そのため、労災保険給付を受けられるケースであっても、別途、派遣先または派遣元会社への損害賠償請求を検討する必要があります。

【参考】労災保険の給付では不十分?

派遣先・派遣元への損害賠償請求は弁護士に相談を

派遣先・派遣元への損害賠償請求をお考えの派遣社員の方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

派遣社員の場合には、派遣先または派遣元のどちらに対して、労災の責任を追及すればよいかが複雑ですので、誰が責任を負うのかを判断するためには、専門家である弁護士のアドバイスが必要になります。また、派遣先・派遣元への損害賠償請求にあたっては、証拠収集、示談交渉、訴訟などの手続きが必要になりますが、弁護士に依頼すれば、それらの手続きをすべて任せることができます。

派遣社員ひとりですべての対応をするのは非常に負担も大きいといえますので、弁護士によるサポートを受けながら進めていくとよいでしょう。

【参考】労働災害を弁護士に相談すべき3つの理由

まとめ

労災保険は、正社員だけでなく派遣社員に対しても適用されます。派遣社員が労災により傷病を負った場合には、労災認定を受けられれば労災保険から各種補償を受けることができます。ただし、労災保険給付だけでは不十分ですので、派遣先または派遣元会社への責任追及も検討していく必要があります。

派遣先・派遣元への損害賠償請求をお考えの方は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。

【参考サイト】

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